「夏空」小説/プロローグ

投稿者: usericonルナリーさん

投稿日:2020/06/17 20:02:25 | 文字数:3,214文字 | 閲覧数:97 | カテゴリ:小説

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6月のテーマ「夕方」への投稿作品です。

今のところ、夕方は気配すらありません。

異世界ものと言うか…なんか新しい創造がしたい気分?と言うか。

架空の町、「リガット」での一コマ。

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 マリンピュールジャムをトーストに伸ばして、何も考えずに齧りつく。
 マリンピュールジャムって何かって? 海色のジャムに決まってるじゃない。
 シンセサイザーの調子がおかしくて、4番目のレの音が半音下がってる。と言うか、全体的に音が違う。何処かの子供が歌ってたクラリネットの歌みたいに、壊滅状態だ。音が出るだけマシ…かな?
 カシオペアでのライブイベントは明後日なのに。
 電池もちゃんと装置に入ってるし、電源だってつなげてある。パソコンが壊れてるわけでもない。となったら、やっぱりあのシンセサイザーそのものがおかしいのか。
 私は打開策を得るために、小型のシンセサイザーを持って、貯めこんであったトルマリンをひとつ手に取った。
 修理代にするなら、小指の爪くらいの石で良いか。
 楽器屋のリリはシーグラスを集めてるけど、本物のトルマリンを渡すと、上機嫌で修理をしてくれる、良い意味で単純な子だ。
 私は家を出て、ヘリポートに向かった。深海にも潜れる「バブルボム」って言う乗り物が置いてある。
 名前はボムだけど、爆発はしない。簡単に言えば、空飛ぶ丸い潜水艦って所かな。
 シンセサイザーを傍らの席において、私はバブルボムの操縦室に入った。扉を厳重にロックして、シートベルトをつける。
 暗号キーを解除すると、一度全部のメーターがマックスまで針を上げる。それから、外部の気圧値を測る装置をチェックする。うん。問題ない。
 操作は慣れてるけど、手順が多い。
 なんせ、空気の希薄な雲の上から、高圧力を受ける深海まで、この一機で全部出入りしなきゃならないんだから。いつかオートマチックを買おうと思って思ってて、未だにマニュアルを使っている。
 私は酸素マスクを顔面に装備して、バブルボムを出発させた。キュイーンって高音が鳴り響いて、反磁場装置が動き出す。
 ヘリポートから、ふわっとバブルボムが浮く。この時の、内臓をグッと持ち上げられるような感覚は結構気持ち悪い。
 あーあ、オートマだったら、この嫌な衝撃もないんだろうになぁ。
 そんなことを思いながら、私は他人のバブルボムとぶつからないように、海岸へ向け機体を進めた。交通ルールを守りながら。

 オルゴール通りで気に入ったモザイク硝子のランプを買った時、グミーの家のヘリポートからバブルボムが出発するのを目撃してしまった。
 あの人ったら、今日私が遊びに行くって言ってたの全然忘れちゃってる! って、慌ててクリスタルフォンを覗き込むと、生真面目な顔をしてマニュアル機器の細かい操作をしているグミーの顔が映っていた。
 運転中には通信できないし、プレゼントのランプは買っちゃったし、此処から私の家まで取って返すって言っても、片道3時間かけて地下ガスロールに乗ってきたんだよ?
 もー、どうせまた音楽の事でも考えてるんだろうけど、あんたはどうして一つの事で頭がいっぱいになると、他のことを完全忘却しちゃうわけ!?
 そんな思いを、大長文でルーラーに書き記して、バブルボム操縦中のグミーに送りつけてやった。
 それから、私はこうなったらリガットの町を歩きつくしてやる!って決めて、途中にあったで医療グッズ屋で日焼け止めを購入し、ワンピースから露出している手足に透明な液体を塗りたくった。

 懐かしい顔が、懐かしいトゲトゲした表情をして歩いてくる。アッシュブルーの髪と目の、ツインテールの女の子。
 俺は、最近始めた趣味の新聞を目の前から避けて、「ミー。久しぶり」って声をかけた。
 季節は夏に近く、中空都市のカフェは、燦燦と太陽が照り付けている。風が通る足元では、ずっと最下層部の波の音が涼し気に聞こえてくる。
 何処の祝賀会にでも行くのかと言うオシャレをしたミーことミークは、化粧が崩れるのもお構いなしに顔をくしゃくしゃにして苦笑いを浮かべ、
「戒兄さーん。ちょっと聞いてよー」と、泣きついてきた。
 話を聞くに、友達に会いにこの町に来たのだが、その肝心の友達が、ミークのことを忘れてバブルボムで出かけてしまったらしい。
「そりゃ災難だったな。前もって連絡しておけばよかったのに」と、俺が言うと、「だめだめ。朝もルーラー送ったんだよ?」と、ミークは言う。
「既読ついた?」
「つかなかった」
「その時点で来るのやめれば?」
「そんなこと言ったって、昨日もちゃんと連絡とったんだよ? 『明日行くねー』って」
「それは…やっぱり災難だな。諦めて、俺とお茶でもする?」
「奢り?」
「もちろん」
「じゃぁ、ラムジャンキーちょうだい」
「昼間っから飲むねー?」
「飲まなきゃやってられますか! 今日はグミーの奢りでレストランの予定だったんだから。何のためのこのドレスだと思ってんの?」
「ガスロールに3時間乗ってくる理由はそれか」
「おかげで香水とんじゃったんだよ? 最近のガスロールって作りが悪くてさー」
「前世紀からある乗り物だからね。老朽化してるんじゃないかな?」
 そんな言葉を交わしていると、古い友人の一人が俺達の席に近づいてきた。
「何? 何? ミーったら、いつの間に帰って来たの?」と、長い赤毛と水色の目の女性が嬉しそうに言う。
「瑠香さーん。私、友情の危機に瀕してるのー」と、ミークは椅子の背もたれに上半身をあずけ、ぐにゃりと脱力したまま大袈裟に嘆く。
 いや、レストランまで予約するほどの約束を忘れて出かける友達を持ったのは、大げさではない不運かもしれない。
 ミークが瑠香に事の次第を話すと、瑠香は声をたてて笑った。
「確かに、よくそんな子と友達で居るね。でも、そのすっとぼけ様は私は嫌いじゃないかも」
「ほんっとうに、音楽のことになると頭のねじが外れるんですよ、あの子」と、ミークは力説する。
 クリスタルフォンをチェックし、「さっき送ったルーラーにも、まだ既読つかないし…どこまで出かけたんだか」と、ブツブツ言う。
「あ。ドリンク、届いたわよ。おー。昼間っからラムジャンキーか」と、瑠香は始終軽い調子で返す。「失恋は飲んで癒せ」と、琥珀色のリキュールが入ったグラスを、ミークに渡す。
「別に恋人じゃないもん」と言って、ミークは頬を膨らませ、グラスを受け取る。「良いんです、私は今日は酔っ払ったままこの町を徘徊しますから」と言って、コーラとラムダークを混ぜたカクテルを飲む。
「自棄になるなよ。俺達も付き合うって」と、俺は努めて明るく言ってから、「別に恋人じゃないけど」と続けた。
「もー。兄さんったら! かつて、あなたに憧れた少女が居たんですよ!」と、ミークは言いながら、俺の持っていた新聞をバシバシ叩く。ラムジャンキーを一口飲んだ時点で、既に酔っ払いの雰囲気だ。
「へー。何処に?」と、俺はとぼけて見せた。
「3年前この町を去りました」とミークは堂々と言って、グラスを再び傾ける。
 俺も瑠香も、ミーク本人の事だと言うのは分かっているが、この話題には「黙ってニヤニヤする」のが俺達のお約束みたいなもんだ。
 13歳の女の子だったミーの、年上ってだけの俺に対する淡い憧れを、俺も知らなかったわけじゃない。面と向かって告白をされたくらいだ。知らないわけが無い。
 だけど、俺はその当時既にパートナーが居て、中学生のミーには「ありがとう。でも、俺にはもう心に決めた相手ってのが居るんだ」って答えた。
 その後、ミーは俺に顔を見せない所で、散々泣いて泣いて、その頃に、今日約束をすっぽかした友達と巡り合ったらしい。
 そんな友達を作らせてしまったのは、俺にも責任が無いわけではないのだろうか? とにかく、今日はこの人生の半分も生きていない女の子を、ちゃんと保護してあげよう。
 俺と瑠香は目を合わせ、頷いた。俺達は、このままミークの自棄酒と自棄旅に付き合うことにした。

作り続ける事を目的としているコラボになります故、月一でアイデアの元としてテーマを掲げております。
テーマから投稿された作品が色々な方々の目に留まり、そこから最終目標のコラボへと通づることが出来れば尚良しです!

楽曲でもよし、動画でもよし、小説、作詞でもよし、イラストでもよし。何でもよし!
とにかく作り続ける事!
身体に無理のないように!

完全思いつきなんで、上手くいくかわからないですが楽しく、そして素敵なオリジナル作品がどんどん増えていければいいなあと思います。

ルールは追々追加していくと思われます。

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