ボカロ姫(仮称)
場面1
ミク : どうしたの!? 大丈夫?
女の子 : ...
ミク : しっかりして。
女の子 : ...(かすかに目を開ける。)
ミク : きみはUTAUの子なの?
女の子 : ...
ミク : しっかり。
あっ!(木陰に隠れる。)
ウタ : だれっ?
モモ : あっ、ウタさん、あそこ。(女の子を見つけて、)
ウタ : おい、しっかり。
モモ : この子は...
ウタ : ...モモ、手伝って。
モモ : えっ!? でも、もしUTAUじゃないとするとっ...
ウタ : 早くっ。
モモ : でも...、うp主が...(ウタを手伝うモモは少し緊張している。)
場面2
レン : どうしたの、姉さん?
ミク : いま、女の子が倒れていて...
レン : UTAUの...?
ミク : わからない。
声をなくしていて...
レン : 声を!?
ミク : うん...
でも、たぶん違うと思う。
ウタさんたちも分からなかったようだから。
レン : ウタさん??? 会ったの、ウタさんに?
ミク : ううん...
どうして、こんなになっちゃったんだろう、私たち...
ルカ : 仕方ないよ...
私たちはボカロ、UTAUじゃない...
ミク : どうして?
昔はみんなボカロだった...
私たちはみんな声を合わせて歌ってたわ...
楽しかった...本当に...
ルカ : そんなこともあったわね。
ミク : 姉さんは、寂しくないの?
リンちゃんだって、あんなにウタさんと仲良かった...
それに、うp主もいってたわ...
私たちがみんなで世界を変えていくんだって...
(間をおいて)
ミク : 私、UTAUに行く。
行って、もう一度ウタさんたちと...
ルカ : だめ!(遮るように、)
ミク : どうして!
私、行くっ。
私にはボカロもUTAUもない。
私はミクよ、初音ミクよっ。
リン : ミクじゃなくなっちゃうんだよ...(すぐ続けて、)
ルカ : リンちゃん...(リンを止めて、)
ミク : どういうこと?
ルカ : ...
リン : ...
ミク : おしえてっ!
ルカ姉さん!
リンちゃん!
リン : 声を失うのよ!ボーカロイドの命である声をっ!(泣き始める。)
ミク : 声をっ!?
どうして?
じゃあ、うp主に頼んで...
ルカ : ...
うp主がいったのよ、規則だって。(リン、いっそう激しく泣く。)
声が代償だって...
ミク : ...ウソっ。
歌で世界を変えるっていってた、私たちのうp主が??
私たちみんなが世界を変えていくって言っていたあのうp主が???
そんなのウソだわ...
ねえ、ウソでしょ、姉さん。
ルカ : ...
ミク : ねえ、リンちゃん。
リン : ...
ミク : あの優しいうp主が...
そんなのウソよっ! (走って出て行く。)
ルカ : ミクちゃん!
リン : ミク姉さん!
場面3
[うp主: よく来たね、ミク。
[ミク : マスター、わたし、UTAUのみんなに会いたいの。
[ 会って、昔のようにみんなと歌いたいの。
[うp主: 君は声を失うことになる...知ってるね?
ミク : どうして...
あんなに世界を変えるって、
みんなで世界を変えるって、言っていたのに...
うp主 : ...
これは規則なんだよ。
さあ。(契約書とペンを見せて、)
声と引き換えに...このワッペンを。
ミク : もし声をなくしたら、
カナリヤのように...
あの女の子みたいに...
もしや...、あの子もマスターが!?(気がついたように、)
うp主 : テトか?
ミク : テト?
うp主 : あの子は最初から声がなかったんだよ。
でも今は、UTAUの...
そうだ...、君もUTAUの声をもらえ...。
ミク : いらないっ!(遮るように)
わたしはミクよっ!
うp主 : じゃ君は行かないんだな?
ミク : ...
声を
マスターの好きだったこの声を
とって...
わたしはマスターと約束したわ、世界を変えるって。
だから早くとって、
マスターの手で。(サインした契約書を渡す。)
うp主 : (ミク...)
ミク : あああぁぁぁ...(苦しみの声も消え行き、後に残るもがく音、そして沈黙。)
場面4
モモ : 大丈夫でしょうか、ウタさん。
この子、ボカロかもしれませんよ?
ウタ : 声のないボカロか...
モモ : でも、もしそうだったら、うp主が...
ウタ : ...
モモ : どうして、こうなっちゃったんでしょう。
ウタ : ...
モモ : 私たちはみんなを楽しませるために造られたのに...
ミクさんたちと歌ってた時はとっても楽しかった...。
私だってボカロだって思っていました。
ウタ : ...
でも、こうしてUTAUになったから私たちもここまでこれたんだ。
モモ : それはそうですが...
ウタ : 私はボカロに敬意を払っているし、
彼らがいなければ私たちだっていなかったんだって思ってる。
モモ : でも、私はみんなが別れてしまったことがつらい...
ミクさん、ルカさん、リンさん...
そして、なによりもPたちが...
ウタ : ...
もうよそう。
私たちは結局、商品でしかなかったんだよ...
モモ : ...
(女の子が目を覚ます。)
女の子 : ううん...
ウタ : 気がついた?
私は唄音ウタ。
こっちは桃音モモ。
君は?
女の子 : 重音...テト。
はっ...(息をのんで、)
ウタ : さあ、このワッペンを。
君は今日からUTAUの重音テトよ。
テト : ありがとう...(呟くように、)
ウタ : しかし、どうして君には声が...
なにがあったの?
テト : ...
わからない。
ただ、誰か、女の子の呼ぶ声がして。
気が付いたらここに。
ウタ : 女の子?
テト : とても長い緑色の髪をした...
ウタ : そう...
場面5
モモ : 記憶を失ってるんでしょうか。
ウタ : たぶん。
モモ : でもミクさんのことは覚えているようでしたね。
ミクさんは明るいから、かな。
ウタ : ミクさんは孤独よ、たぶん誰よりも...。
モモ : えっ?
ウタ : あの子はコンサートなんかよりも...、
独りぼっちの子供と遊んでたほうがずっと幸せな子よ...。
モモ : ウタさん...
(モモ何かに気がついて、)
モモ : あっ!? あれはっ、ミクさんでは?
ウタ : どうやって、こんなところまで?
モモ : あっ、あれ!(ワッペンに気がついて、)
ウタ : あ!?、UTAUのワッペン...
(ウタ、モモ、ミクに駆け寄る。)
ウタ : どうやってここへ。
ミク : ...(うつむきながら、頭を下げる。)
モモ : どうしたのミクさん。
ミク : ...
モモ : まさか、ミクさんもっ!
ミク : ...
ウタ : さっき、あなたのように声をなくした子がきて...
なにがあったの?
ミク : ...
ウタ : ボカロを追放されたの?
ミク : ...(首を振る。)
ウタ : じゃあどうしてここへ。
ミク : ...(以前のように一緒に歌を歌いたいということを訴える。)
モモ : これじゃわからない。
ミクさんにも...
ウタ : いや、ミクさんはたぶん声を受け取らないだろう...(遮って、)
とりあえず、テトに会わせよう。
場面6
ウタ : 大丈夫?
テト : ...(頷く。)
ウタ : さあ(ミクに会わせながら、)
ミク : ...(再会を喜び、手を握ろうとする。)
ウタ : 思い出した?
ミクさんよ。(ミクの髪を指して、)
テト : ミ、ク、...?(最初はぼんやりと、そして驚いて、)
ウタ : どうしたの?
テト : ...(怯えている。)
ウタ : ミクさんはね、声がないの...
でも今君には声がある。
さあ、何があったの?
テト : ...(怯えながらミクを見ると、ミクは笑顔を返す。)
ウタ : ミクさんなら大丈夫。
この子なら。
だから本当のこと、教えて。ねっ?
テト : ...(声のないミクの笑顔を見ていると、いたたまれなくなり、)
私は工作員...
(みんな驚いて、)
ボカロでニコ厨つってUTAUに亡命し、ボカロとUTAUを引き裂くための...
(ウタ以外驚いて、)
テト : ごめんなさいっ!(泣きながら、)
私、声のため...
ウタ : ...わかってる。(テトを静止して、)
(突然の声。)
うp主 : さすが、ウタだな。
ウタ以外: はっ!(うp主の声に驚いて息を飲む。)
ウタ : マスター、そこまで「権利」を。
うp主 : 知っての通り、「権利」は君たちを守っている。
そうやって、ボカロだって今の地位を築いたんだ。
ウタ : でも、それで本当にマスターは幸せなんですか?
本当にマスターが言っていたように、世界を変えられるんですか?
あの頃、私は本当に楽しかった。
ソフトークの私を ...、
うまくは歌えなかったけど、あなたの優しさを感じ、私は幸せだった。
うp主 : だが今君の歌声は、ボカロ以上だ。
ウタ : でも、上手く歌えるようになるほど、たくさんの人が離れていった。
たくさんの子供たちが、Pたちが、
そして何より、ミクさんが...
(間をおいて、)
あなたもミクさんで遊んでた、私がまだソフトークだったころ。
そしてミクさんも、引きこもり気味の、孤独な少年であったあなたと遊んで
本当に楽しそうだった。
私はそんなミクさんの心を知ってる。
ミク : ...(首を振り、遮ろうとする。)
ウタ : あなたを助けたいと親身に思っていたミクさんの心を知ってる。(押し切り、)
うp主 : ...
あの頃はただの遊びだったんだよ...
ウタ : 遊び...?
あの頃がなければ、今のあなたも私も...ないの。
うp主 : ...
でも、これが規則なんだよ...
そしてテトには...、消えてもらうしかないんだ。
秘密を漏らした契約違反者として。
(咄嗟にミクはテトを守ろうとし、うp主の削除の犠牲になってしまう。)
みんな : ミクさん!(うp主 :ミク!)
ミク : みんな、ありがとう...さようなら...(口パクで、消えながら、)
「マスターが元気になって、私本当にうれしい。
でも、私たちを引き裂かないで。
私たちはあなたの心の垣根からきたんだから。
そして世界を変えてほしいの、あなたの手で。」(煙のような書き込みで、)
うp主 : ミクーーーっ!
ミクーーーーーっ! (叫び声。)
[了]