matatab1
ピアプロID: postoaka
読みは「またたび」、猫が好きなあれです。全く反応しない猫もいますが。
始めて作品を投稿した時は、こんなに続けられているとは思ってなかったです。
『同じ作者の別の曲』を小ネタで仕込む傾向あり。探してみるとちょっと楽しいかも。
ブックマークして貰ったり、メッセージを貰ったりとかありがたい限りです。
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最近の投稿作品 (131)
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むかしむかしの物語 王女と召使
プロローグ 二年前
賑う道から離れた裏道に、一人の少女がいた。鮮やかな金髪と大きな白いリボンが目立ち、顔つきはどこか高貴な雰囲気がある。近くには不機嫌な顔をした男、向かい合って会話をしていた。
「……その事は謝ったでしょう。怪我をしているのなら病院まで案内しますよ?」
「謝るだけじゃすまねぇって言ってんだよ! 悪いと思ってんならさっさと金出せよ!」
一方的に言いがかりをつけている状況だった。道を歩いていたら人とぶつかり、それで怪我をしたからと金を要求される。こんな典型的な事が本当に起きるのかと、少女は半分呆れ半分感心していた。
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蒲公英が紡ぐ物語 第64話
もうひとつのエピローグ
『もしも生まれ変われるのならば、その時はまた遊んでね』
小瓶に込められた羊皮紙。それには良く似た字で同じ願いが書かれていて、片割れの生真面目さに苦笑する。
「もっと現実的な事を書けばいいのに」
だけど、言い伝えそのものが何とも信じ難い話だ。奇跡を望むくらいが丁度良いのかもしれない。
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蒲公英が紡ぐ物語 第63話
エピローグ 綿毛の行く先
打ち寄せる波の音が心地良い。水平線が澄んだ空と輝く海を分けて、同じ青でも異なる色合いを見せている。
海岸からゆっくり眺めるのはいつ以来だろう。独りぼっちになってから足が遠のいて、いつしか高い王宮から見下ろすのが当たり前だった。
もしかしたら、無意識の内に避けていたのかもしれない。海岸で潮風に吹かれれば、幸せだった頃を思い出してしまうから。
大切な存在であるのは変わりないけれど、あの頃と今では傍にいる人が違う。
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蒲公英が紡ぐ物語 第62話
緑ノ革命
浅葱色の髪が歩く度に揺れ、すれ違う兵士や召使が恭しく迎え入れる。高い足音を立てて緑の王宮を進むのは、国王の妹ミク・エルフェン。慣れ親しんだ家に到着した彼女は、早速兄の元へ向かっていた。
本音を言えば旅で疲れた体を休めてから報告をしたいが、何分兄は仕事に忙殺される身である。時間を割く事すら惜しいはずなのに、今日帰ると連絡した妹を待ってくれている。
こちらの都合で兄の手を煩わせてはいけない。連れ立つ護衛二人が困惑する程の早足で、ミクは王宮内を進んで行く。
後ろで控える一人はミクより年上の女性で、髪と目は深緑。彼女の緑髪は西側人種の証である。
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蒲公英が紡ぐ物語 第61話
獅子の花
午後三時を伝える教会の鐘。定刻を知らせるに過ぎない音だが、墓地では鎮魂の音色として響く。
歴代の王族の墓が並ぶ場所を通り過ぎ、アレンとリリィは墓地の片隅へ向かう。リンと近衛兵隊は眠っているのは、まるで他の墓から追いやられたような一角である。周りと比べて明らかに手入れがされていない、落ち葉に覆われた道を二人は歩く。
トニオ。アル。メイト。ルキ。グミヤ。テッド。六人の墓が二列に分かれて並び、彼らの奥にレン王子の墓は立っている。王子と近衛兵隊を同じ場所に葬り、墓を造ったのはメイコの計らいである事を、アレンとリリィは以前テトに教えられていた。
リンベルは革命時に逃亡したが行方不明。生死も分からない。テトにはそう説明している。
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蒲公英が紡ぐ物語 第60話
金の双獣
「……ちゃん! 兄ちゃん!」
まどろみの中で声をかけられ、青年は目を覚ました。寝ぼけた頭を掻きながら体を起こし、荷馬車に乗せて貰っていたのを思い出す。野盗から馬をくすねて、もとい拝借した事も。
御者台へ振り返ると、穏やかに笑っている男性が見えた。彼の向こう側には開かれた門。目的地に到着したのだ。
青年は荷台から降りて大きく伸びをする。両腕を下ろして荷物を取ろうとした時、歩み寄って来た男性に話しかけられた。
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蒲公英が紡ぐ物語 第59話
壊れた箱庭 新たな一歩
割れるような歓声が広場を揺るがす。群衆は『悪ノ王子』の斬首に狂喜の叫びを上げ、圧政の終わりと新時代の始まりに熱狂していた。
首を晒せ、死体を吊るせと一部の国民が吠える。殺された王子を、リンを辱めようとする人々に、レンは嫌悪と憎悪が湧いた。
気持ち悪い。人が死んだのに笑っている。人が殺されたのを喜んでいる。
周囲の見物客を斬り捨ててやりたい。特に死者を冒涜する奴らを。どす黒い感情の赴くまま、レンは剣へ手を伸ばした。しかし柄に指先が触れた瞬間我に返り、拳を固めて衝動を抑える。
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蒲公英が紡ぐ物語 第58話
悪ノ散華
『悪ノ王子』の処刑にざわめく黄の国王都。広場では準備の段階で見物客が集まっていた。断頭台が運び出された際に畏怖の声が上がるも、見物客は興味と期待を隠しきれない。
王子は粛清した者達と同様の方法で殺されるのだと。
執行は午後三時。刃が落とされる瞬間を待ちわびる民衆は、異様な熱気に包まれつつあった。
騒然とする王都とは対照的に、郊外は変わらず静けさを保っていた。まるでそこだけ切り離されたかのように人気が無く、廃墟から外れた位置に小屋が佇むのみ。
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蒲公英が紡ぐ物語 第57話
種を撒く者
「……王子は、そこまでの覚悟を」
話を聞き終え、メイコは沈痛な面持ちで呟く。ミクは病人のように青ざめ、信じられないと首を振った。
「嘘。嘘よ……」
話を受け入れられない様子の彼女へ、リンは憐れみの視線を送る。緑の兵が略奪をしていた事とレンがカイト王子を殺していないと知り、緑の王女は相当の衝撃を受けたようだ。それはそうだろう。正しいと思い込んでいたものを徹底的に否定されたのだから。
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蒲公英が紡ぐ物語 第56話
悪ノ覚悟 正義ノ傲慢
どれくらい経ったのかな。
鉄格子をぼんやりと眺めて、リンはふと思う。閉ざされた地下牢では外の様子も分からない。格子付きの窓が天井近くにあるので、精々昼か夜かの区別が付く程度。就寝と起床の回数もでたらめになってしまい、時間の感覚はとっくに消えてしまった。
『悪ノ王子』の惨めな姿を嘲笑おうと、幽閉された直後は度々人が来ていたが、この所は食事が運んで来る兵が姿を現すだけ。革命軍の兵達は囚われの王子を見世物にするのに飽きたのだろう。
一度だけ、緑の王女がここにやって来た。反乱は当然の報いだの、平和を乱した悪魔の子だのと散々罵声を浴びせられた。特に糾弾されたのは、青の国への侵攻とカイト王子が暗殺された事についてだ。どうやらレンがカイト王子を殺したと思い込んでいるらしい。
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蒲公英が紡ぐ物語 第55話
翡翠が望む明日
木々が生い茂る森の中、少年は目の前で蹲る少女に訊ねた。
「どうして隠しちゃうの?」
少女が頭を押さえて涙ぐむ。
「……皆と違うから。緑髪じゃなくて、変だから」
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蒲公英が紡ぐ物語 第54話
巡る因果
自身の悲鳴が耳に届き、リリィは目を覚ました。見慣れない天井が真っ先に映る。瞬いた拍子に涙が零れて、泣きながら寝ていた事に気付いた。涙を拭いながら身を起こす。
ここは王都外れに建っていた空き小屋。焼け野原となった貧民街の方へ逃げる最中に偶然見つけた廃屋だ。辺りに人気は無く、一時的に身を隠すにはうってつけだった。
やや離れた位置で仰向けになっているレン王子へ目を向ける。床に敷いた外套の上で目を閉じる彼は、まだ意識を取り戻していない。打ち込んだ手刀が強すぎたのか、それとも気絶したままの流れで眠ってしまったのか。後者であって欲しいと考えて、リリィは荒く息を吐いた。
「何で、今になって……」
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蒲公英が紡ぐ物語 第53話
百合の傷
大陸を二分する程広大な、北から南に伸びる森。自然の国境線から少々離れた場所に町があった。そこは現在の地図に記されていない、村より少し大きい程度の田舎町。草木が多い牧歌的な風景に風が吹き抜けて、立ち並ぶ家に木々の匂いを運んだ。
屋敷の庭で爽やかな風を一身に浴びているのは、金髪の少女と緑髪の男の子。それぞれの髪が日差しを浴びて輝いた。
「気持ちいいね。姉様」
生え変わり途中の歯を見せて笑う弟へ、リリィは微笑んで返す。
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蒲公英が紡ぐ物語 第52話
貫き通す嘘
浅い呼吸を繰り返してリリィは駆ける。長い金髪に軍服、剣と同じ長さの棒を腰に差した、かなり目立つ格好だったが、人気の無い道には彼女しかいなかった。
「流石にここら辺にはいない、か……」
息を整えながら周囲を見渡す。速度は落としたものの、足は動かし続けている。
王宮を脱出した直後は革命軍兵士に数度見咎められ、その度に実力行使に訴える羽目になった。敵兵は王宮周辺に集中しているようで、そこから遠ざかる程監視の目は緩かった。
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蒲公英が紡ぐ物語 第51話
変わりゆくもの
目の前の敵兵が傾いで視界が開ける。手近の一群をかろうじて斬り捨てたトニオは、がっくりと膝を付いて項垂れた。息は上がり、鼓動が耳を打つ。双剣の一本は半ばで折れ、もう一本には亀裂が走っていた。
ここまでか……と自身の限界を悟り、重い頭を持ち上げる。周囲は血の海だ。王宮兵士と革命軍兵士、そして赤い鎧の兵士が倒れている。未だ庭園のどこかで戦いの音が聞こえるが、決着が付くのも時間の問題だろう。
荒い息を繰り返しながら、トニオは傷だらけの体を引きずって移動する。大の字に倒れる兵士の傍らに着いた時、咳と共に血を吐き出した。口元を赤く染めて、トニオは巨漢の兵へ声をかける。
「アル、生きてるか?」
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蒲公英が紡ぐ物語 第50話
傲慢の先
女傑二人が激突する頃。
レンは逃げも隠れもせず、一人静かに自室の執務椅子に座っていた。剣は手元から離れた壁に立てかけているので丸腰。体術は心得ているが、敵に囲まれれば抵抗の甲斐無く捕えられる。それを充分認識した上で、革命軍が王子の許へ来るのを待っていた。
「やっと終わるんだな」
圧政に苦しめられた民衆が立ち上がり、革命を起こして悪ノ王子を打ち倒す。筋書き通りに進んでいる事に喜び、レンは穏やかに笑う。