ピアプロ公式コラボ

開催予定のコラボ

初音ミク「マジカルミライ 2019」楽曲コンテスト

Coming Soon

あなたの音楽で、新しい創作文化を彩ろう!

  • 初音ミク「マジカルミライ 2019」楽曲コンテスト 2月1日から

最近開催のコラボ

COCOLLABO×piapro『39Culture PARTY&COSPLAY』テーマソング大募集☆

募集中!

テーマは『PARTY』&『COSPLAY』!イベントのテーマソングを大募集!

  • 『PARTY』テーマソング募集! 〆切りまであと10日!
  • 『COSPLAY』テーマソング募集! 〆切りまであと10日!

SNOW MIKU 2019×piapro 4コマ塗り絵“線画イラスト”募集!

募集終了

  • 作品選考中

ハーパーコリンズ・ジャパン×piapro 小説「悪ノ娘」ショートストーリー大募集!

結果発表済み

  • 結果発表済み!

「赤い羽根共同募金×ピアプロコラボ企画」~支えあうココロ、未来へ~ ポスター&テーマ曲大募集

結果発表済み

  • 結果発表済み!

最新の結果発表

ハーパーコリンズ・ジャパン×piapro 小説「悪ノ娘」ショートストーリー大募集!

小説「悪ノ娘」ショートストーリー募集!

入賞

悪ノ娘 黄のアンコールあるいはビス

話をしよう。 その共同墓地は格好の遊び場だった。旧王都という街中では子供たちの遊び場は少なく、近場で人気のなく木々に覆われたそこは最適だった。 私が「彼女」に気付いたのは、ある日のこと。 かくれんぼの場所探しの最中、ある墓標の前の彼女を見つけた。その修道着は確かエルド派のものだ。 私は目の前の「彼女」に見とれていたが、声をかけてみる。私の方を振り返った「彼女」は微笑んで口を開いた。 「私? 私は……」 これは、私と「彼女」と「悪ノ娘」のお話。 修道女はリンと名乗った。彼女は予想通り、エルド派の修道女だった。市での買い物ついでにここを訪れたのだという。 「レヴィア派の墓地を?」 私の疑問にリンは一瞬きょとんとして答えた。 「確かに私はエルド派で、ここはレヴィア派の墓地だけど、私が参拝しない理由にはならないし、亡くなった人を悼むのに宗派は関係ないと思うから」 人からの受け売りだけど、と照れる彼女の姿が眩しい。 私の知る修道女と違い、気楽に接してくるリンがひどく新鮮に映る。 「そういえば、誰のお墓参りを?」 ふと覚えた疑問を投げかける。きっと旧王都在住だった親族だろうとは思うのだが。 「「悪ノ娘」のお墓をね……あまり近寄らないように言われてない?」 「悪ノ娘」、私が物心ついた頃に起こった革命時に処刑された王女の異名だ。随分な独裁者で、自由気儘に贅の限りを尽くした為、罰を受けたのだと牧師様が力説していた。しかし、「悪ノ娘」の話は知っていても、実感はない。革命当時、私は幼すぎたのだ。 「……そう、もうそんなに経つのね」 リンの表情は、どこか哀しげだ。感情が表に出やすいのか、僅かな時間で彼女の変化は枚挙に暇が無い。 いざ考えてみると、「悪ノ娘」の最期は自業自得だろうが、大人たちが延々彼女を咎め続けることが理解できなかった。悶々とする私の肩にリンが優しく手を載せた。 「大人の考えも、あなたの考えも間違ってないよ。それぞれ経験してきたものが違うから、考え方も違う。そんなに思いつめないで。それに、あなたの気持ちは多分「悪ノ娘」、リリアンヌも嬉しいと思うな」 リリアンヌ、「悪ノ娘」の本名。私と同じ年で国を統治し、そして処刑された少女。 彼女が、何故凶行に及び、何を思って断頭台の露と消えたのか、私には分からない。それでも、なんとなくそれだけではない気がした。 彼女に思いを馳せていると、私を探す声が聞こえてきて、リンは日の高さを確認する。 「いけない、もうこんな時間……ねえ、あなたの名前を教えて」 また会うかもだから、とリンは微笑みながら言った。 私にとって毎度のことだが名乗るときは気後れする。少し間を置いていつものように答えた。 「ロゼ、です」 「rosee(露)……いい名前。それじゃ、ロゼ」 またね、と手を振りながらリンは立ち去っていく。入れ替わるように友人たちがやってくる。その内の小さい子が私のそばに真っ先に駆け寄ってきた。 「ろじぇー、みっけ!」 ロジェ……rosier(薔薇)、曾孫とは違い優れた人物であったらしいリリアンヌ=ローゼスの家名から拝借したという、私の名前。気高くあれということらしいが、生憎そんな性格ではなく、あまり好きではない。舌っ足らずな子以外には、ロゼと呼んでもらっている。 リンに嘘をついたことに罪悪感を覚えたが、なんとなく彼女なら笑って赦してくれそうな気がした。 +++++ リンとの再会は翌週だった。礼拝後の諸々を済ませた私は共同墓地へと向かっていた。皆一様に貴族墓地へと赴く。皆リンの話を聴いて興味を抱いたからだ。リンは市の買い物ついでと言っていたから、会えるならば今日だろうと考え連れ立って歩く。 貴族墓地に着くと、予想通り「悪ノ娘」の墓標の前でリンが祈っていた。その姿がひどく綺麗で、私たちは入り口に佇み見つめる。 少しして、祈りが終わったらしいリンに向かって声をかけた。私の声に振り返ったリンは人差し指を口元に当ててから手を振ってくれた。それを合図に皆でリンの元へと駆け寄る。 「今日は随分と大所帯ね」 少し驚いているようだが楽しそうなリンの様子に私は安堵した。 「リンの話をしたら、皆会いたいって聞かなくて。私たちの知ってる修道女様は口うるさいから」 私の言葉にリンは納得しつつも険しげな表情をする。 「そう言っては駄目よ。修道女は皆のことを思って言ってくれているんだから」 少し厳しい言葉を掛けるリンの姿は、私たちの知る修道女と同じようで違うように感じられた。 まあ、お小言はいいか、とリンはわざとらしくおどけた。私はこれからのリンの予定を尋ねてみる。 「特にないけど、買い物の途中で抜け出してきたから、直ぐに戻ろうかなって」 悪戯を告白するようにリンは答えた。本当に表情がころころと変わる人だ。その少女の様な雰囲気に強く親しみを覚える。 しかし、リンの答えには落胆してしまった。リンの事情も分かるが、もっと話してみたい気持ちが強かったので残念だった。 それは他の子たちも同じようで、口々に不満の声を上げている。こういうとき幼さが羨ましい。 「ごめんね。私も、まさかこうなるとは思ってもなかったから」 困ったように告げるリンの姿を見て、皆を宥めようとしたその時だった。 「リン! 見つけたましたよ!」 大きな声が貴族墓地の入り口から聞こえてくる。振り返ると、リンと同じ修道着を着た二人の女性が向かってくる。一人はおばあちゃんくらいの厳しそうな人で、もう一人は白い髪に赤い目をしたお母さんくらいの人だった。 「イヴェット院長、クラリス」 「全く、買い物の途中でふらっと消えたかと思えば……きちんと、お参りは出来ましたか?」 嗜める様な厳しい口調だった院長は途中から声を和らげた。はい、と答えたリンによろしい、と告げて今度は私たちを見て再度リンに尋ねた。 「リン、この子達は?」 「あ、この子達は……」 「私、ロゼといいます! リンさんには先週初めてお会いして、それで皆もリンさんに会いたくて、引き止めてしまったんです」 私は院長の前に出て、弁明した。彼女を引き止めたのは事実なので少しでもお叱りが少なくなればと考える。 「ロゼ……rose(薔薇)ですか、よい名前ですね」 私の謝罪に反応したのはクラリスだがズレた感想だった。それ以上に、私は自分の本名を言い当てられてドキッとする。 背後で、リンが吹き出した。 「違うわクラリス。そのroseはエルフェ語でしょ? ルシフェニア語だとrosee(露)。薔薇はrosierよ」 リンの説明に、私は内心驚いた。リンは単純に言葉の違いを説明しただけだが、鼓動が早まる。 「嫌だ、私ったらとんでもない勘違いを」 リンの指摘に真っ赤になった両頬を抑えるクラリスの姿に、つい笑い出してしまった。厳格な表情だった院長まで口元を押さえて肩を震わせている。しかし、直ぐに小さく咳払いをして話を戻した。 「大体の事情は分かりました。リンの抜け駆けも、帰ってからのお説教で済ませしょう。それ以外については不問とします」 院長の言葉に、私はホッと息をついた。リンが不必要に咎めらず安心した。 しかし当のリンが「お説教」の言葉にげんなりしていたというのは、後から他の子に教えてもらったことだ。 「ともあれ、こうして修道院外の子供と触れ合うのもよいことでしょう。まあ、こちらを管理している教会の方はいい顔はしないでしょうが」 「修道院に子供がいるんですか?」 私の疑問に院長は笑みながら答えてくれた。曰く、彼女たちの修道院は孤児院も併設しており、フリージス商会の寄付を受けているため、大人数を抱えているのそうだ。 更に話を聴くと、彼女たちの修道院は海や千年樹の森に近い立地のため、日常的に行く機会があるのだという。 そんな話を聴いて興味が湧いた。旧王都からも海や森は近いが、おいそれと気軽に行けず大人の引率は必須だ。子供の集まりに大人が混ざると、なんとなく白けてしまうが、彼女たちなら平気な気がした。 墓地の隅に座って、院長は海や森の話をしてくれた。他にもクラリスが料理上手なことや、リンの失敗談なども聞いた。リンはクラリスの方がおっちょこいよ! と力説していたが。そうしている内に日も随分高くなってくる。 墓地管理の牧師様に目をつけられる前に、と私たちは退散する。 「ロゼ、今日は色々楽しかったわ。今度は修道院の子達も連れてこられたら、よろしくね」 別れ際、リンからの再会の約束がとても嬉しかった。私もリンの修道院や海や森に行ってみたい、と告げるとリンは嬉しそうに、絶対来て、と言ってくれた。 そうして私たちは、普段とは違う体験に興奮しながら家路を辿った。 +++++ 「ロジェ、あなた、エルド派の修道女と会っているようね」 リンと出会ってから数週間後の夜、夕飯の席で母に尋ねられる。あれ以降、日曜の決まった時間に私達はリンらと話すようになっていた。来る修道女は週変わりで、3人以外が来ることもあった。彼女らの話は説教臭くなく楽しく感じていた。 子供と他宗派の修道女という目立一団に、場所も場所だ。恐らく牧師様にでも見られたのだろう。しかし、リンたちと話すことが悪いとは思わない。 「そうだけど、あちらの修道院とか海とか森の話を聞いくだけ」 「だけって、それがきっかけで教義に感化されるかもしれないじゃない。不用意に他派と関わるべきじゃないわ」 母の咎めに、私はむっとする。最近、考えを押し付けてくる母のことを苦手に感じていた。 「だったら何? 私は悪いと思わない。リンたちは良い人よ。お母さんみたいに押し付けがましくない」 「ロジェ!」 母の逆鱗に触れてしまったようだ。しかし、リンたちが考えを押し付けてこないのも事実だ。彼女たちを知らない母に悪く言われる覚えは無い。 頑なに譲らない私に、母は外出禁止を言い渡すのだった。 次の日曜日。私を礼拝に伴うか母は迷ったようだが、リンたちと鉢合う可能性を考えて留守番を言われた。誰も居なくなった隙を見て、以前見つけた隠し通路を使って外へと出、エルド修道院へと足を向けた。大まかな場所は聞いていて、大きな街道に沿えば迷う心配もない。 今、リンに無性に会いたかった。 しかし辿りついた修道院の門前で、リンが居ない可能性にやっと気づく。門前でおろおろする私を不審に感じたのか、修道院から青年が向かってきた。立派な体格の彼に萎縮してしまう。 「あんた、うちに何か用?」 「えっと、私、シスター・リンに会いたくて、ここに」 「リン姉ちゃん? 今はちび達と散歩だけど。あんた、近くの人間じゃないよな?」 そう言って私を見つめる彼に、さらに縮み上がる。しかし、彼は礼拝堂で待つよう言ってくれた。 「もう色々終わった頃だし、姉ちゃんも直ぐ戻ってくるだろうから」 彼の提案に素直に従って礼拝堂で待つと、直ぐにリンがやってきた。 「ロゼ、急にどうしたの?」 普段どおりに話しかけてくれたリンに抱きついた。私の背を撫でながら少し散歩しましょうか、とリンは提案してきた。 日の照る海岸線を歩く。少し暑いが借りた帽子のおかげで涼しい。道すがら、私はリンに母との諍いを話した。彼女にただ聞いてほしかった。 「お母さんは、ロゼのことが大切なんだね。でも、ロゼの気持ちも分かるなあ。私も反抗ばかりしてたから」 それより性質が悪いかも、と苦笑しながら呟く彼女の目は遠い昔を懐かしんでいるようだった。少しして、私のほうを振り返った彼女は静かに告げる。 「ねえ、ロゼ。私の話を聞いてくれる? 我儘で傲慢だった、私の話を」 そう告げてリンの口から語られた話は、私の知らない物語だった。 我儘な凶行の数々、拡大する戦火、その末路。それは、つまり―。 「ねえ、ロジェ。私が「悪ノ娘」だとしたらどうする?」 私に問いかけるリンの表情は真剣そのものだが、突然の告白に私は戸惑う。 リンは暴政を強いた。 リンは私にとって、姉のような存在。 リンは酷いことをした、悪ノ娘。 リンは孤独に生きた、悲しい人。 リンは、リンは……。 「そんなの、分かんないよ」 本心だ。私は「悪ノ娘」を詳しく知らない。大人たちであれば憤るかもしれない。 でも、私にとって彼女は接しやすい姉のような人だった。少し不真面目なところもあって、でもリンはリンで、彼女の過去は何ら関係のないものだ。 そう伝えると、リンは嬉しそうな表情になった。 「ありがとう、ロジェ」 「あの……私の名前」 いつの間にか、リンは私の名前を正しい発音で呼んでいた。 「最初からなんとなく、自分の名前が好きじゃないのかなって」 私の名前も色々言われたから、と苦笑するリンは楽しそうだった。そうだ、私達の名は同じルーツだ。目の前の女性は、10年後の私なのかもしれない。 私はそんなことを伝えてみたが、彼女はすぐに否定する。 「違うよ、だって10年前の私はこんな聞き分けよくなかったもの」 戻りましょうか、という彼女の背はどこか優しさと悲しさを背負っていた。それは、彼女が積み上げてきたものなのだろう。 確かに私と彼女は境遇も何も違う。私の10年後は彼女ではないだろけど、きっと彼女の姿は忘れない気がした。 戻った修道院で私を待っていたのは院長と母だった。 母は私の姿を見るなり駆け寄ってきた。怒られると覚悟した私を抱きしめる。 心配したと、叫ぶように告げる声に罪悪感を覚え、謝罪の言葉を告げた途端、涙が溢れてきた。 私がは落ち着いてから、母は院長やリンに礼を告げた。 「いえ、諍いを収めるのも我々の務めです。特に娘さんの年頃には、他者の方が案外話せるものですから」 そう告げる院長の姿は慈愛に満ちていて、隣のリンも凛々しく見える。そんなリンが母に向かって頭を下げた。 「お母様、どうか、娘さんの気持ちを否定しないであげてください。どうか、今後も彼女と会うことをお許しいただけませんか」 突然の申し出に母も驚いたようだ。少し間をおいて分かりました、と告げる母の声に今度は私が驚く。 「あなたの真摯な態度はよく分かりました。……この子を無理に引き入れないならば、まあ」 渋々だが今後もリンとの交流を認めてくれる言葉が嬉しくて、私は母に抱きついた。 「ありがとう、お母さん。 ありがとう、リン!」 これは、私と「悪ノ娘」のお話。 私という少女にとって、彼女の姿は脳裏に強く刻まれた。 今日は日曜日。共同墓地の掃除に精を出す。 市も落ち着く時間。そろそろかと思っていると、私を呼ぶ声がする。 振り向いた先に映った彼女は、今日も太陽に照らされて、輝いていた。

悪ノ娘 黄のアンコールあるいはビス

万華さん

リリアンヌの後日談を描いた作品は他にも多くありましたが、 その中でもストーリー性、文章力、オリジナル要素等のバランスがもっとも良くとれている作品だと感じました。 「名前」に関する考え方や反応を通して、各人物を上手く表現できていると思います。 なんというか本編に普通にあってもおかしくなさそうな物語です。

入賞

秘密の城館

「今日はリリアンヌの気分じゃないの」 王宮から2キロほど離れた場所(と言っても王宮の庭園内だが)に僕とリリアンヌはいた。 “プティ・シャトー” ⋯⋯、先代女王アンネが遺した小さな城館。 辺り一面にはあえて手入れをさせずに自然で牧歌的な庭園が広がっており、さながら古代ギリシャの理想郷アルカディアにでも降り立ったかのような錯覚に見舞われるほど美しく、長閑で、心安らぐ静寂が僕らを包んでいた。 彼女は時折、窮屈な宮廷内から逃げ出し、ことに読書の時間などを嫌ってこの離宮に籠城することがあった。その度に僕は彼女を気遣い、この秘密基地まで足を運んでいた。 ここに招き入れられるのは人であれ物であれ、彼女の「好きなもの」だけだった。 そして“人”で唯一、敷居を跨ぐことを許されたのは僕だけなのだ。 「今日はエリザベートなの。こんなに澄み渡ったキレイな秋晴れの午後は、そんな気分だわ」 最近になって彼女はまた新しい遊びを思い付いたようだ。 その日の気分によって名前が変わる———— 暴君王女の威厳を湛えたリリアンヌ、物憂げで排他的なソフィア、饒舌で甘えたがりなアンリエッタ、そしていま僕の目の前にいる、上品で無理に大人ぶった物腰のエリザベート⋯ 僕が知っているのは4人。 彼女の名前はこれからまだ増えるかもしれない。 この中に本当の彼女はいるのだろうか⋯? 「今日は私がお茶を淹れますわ」 冗談めかしてリリアンヌ—— いや、エリザベートが豪奢な刺繍が施された椅子から立ち上がり、やや大げさな身のこなしでティーカップを用意する。 もちろん彼女自身が本当にお茶を淹れるなどという身分不相応な真似をするはずがない。これは俗に言う「おままごと」だ。 しかし道具はすべてオモチャではなく本物。それも一級品のもので彼女の居室は埋め尽くされている。 “好きなものだけ——” そう、彼女は食べることが大好きだった。 お気に入りの銀食器やテーブルクロス、グラス類からティースタンドまで持ち込み、もはや自分だけのパーティー会場を創り上げてしまっている。 「来賓はアレン、お前だけでいいのよ」 そう言い満足げな表情を浮かべるエリザベート。 ここでの彼女は思う存分羽を伸ばし、作法の枷も外して普通の14歳の少女に戻っていた。 産まれながらに王族のしがらみの中で生きてきた彼女にとって、高貴な大人達に囲まれた環境での生活は普通であるに違いない。 しかし宮廷内の厳しい規則やマナーといったものに対しては彼女もよく愚痴をこぼしていた。 こればかりはいくら幼少の頃から教え込まれたとしても、人間の理にかなわぬしきたりも多く、彼女のストレスの一因になっていることは確かだろう。 王女というのも大変である。 毎日のように催されるパーティーの席では、各国諸侯を相手に笑みを絶やさず、気の利いた言葉をソツなく紡がなくてはならない。 それよりも問題なのは、例えば喉が乾いたとき。 水を飲むにしても、水を持って来る係の者に頼まなければならない。それ以前にまずその水を持って来る係を呼ぶ係の者に頼んで、水を持って来る係の者を呼んでもらわなくてはならないのだ。 さらに、服を着替える場合も一筋縄ではいかない。 下着やドレス、アクセサリーごとに運んで来る係がおり、運んできた衣類を侍女頭に渡し、侍女頭が女官長に渡し、女官長が王族の付き人に渡し、それから王女に渡される。 誰か一人でも欠ければ着替えは滞ったままとなり、王女は裸で待たされることになる。 こういった奇妙な風習がまかり通っている宮廷内では、息継ぎをしなければとても精神的に耐えられまい。 そういった考えもあって、僕はリリアンヌがこの小さなお城に逃避しても何ら咎めることなく、むしろ彼女の貴重な憩いの刻を守ろうと務め、空っぽのティーカップを啜り、 「とても美味しいです、リリ⋯エリザベート様」 と請け合うのだった。 「私 時々思うのだけど、どこか人知れぬ辺境の地に大層な御殿を建てて、そこで私と数名の召使いだけでひっそりと暮らしたいわ」 突然エリザベートが抑揚のない声でそう呟いた。 その声の調子が、僕の中でいつぞやのリリアンヌの台詞と重なる。 『太陽はいつもひとりぼっちじゃのぅ⋯わらわと同じじゃ』 あのような感傷的な文句は、心身ともに健全な人間の口からは出てこまい。 彼女とて熱い血が流れている人間だ。齢14の身空とはいえ、物思うことがあっても不思議ではない。 僕は誰よりもリリアンヌのことを知っている。 彼女は決して強くはない。 だから僕が守ってやらなくてはならない。 そういえば少し前から気になっていたことがある。 この居室にある本棚兼書斎机(本棚に本は一冊もなく、代わりにお気に入りの食器や小物が並べられている)に、インクつぼとペン、羊皮紙が置かれていることに気付き、ふと近づいてみたところ、 「これっ!寄るでない!」 と、リリアンヌが慌てて僕を追い払った。 こんな所にまで執務を持ち込むような性格でないことは分かっている。 人に見られたくないもの。 もしかして彼女が日記を⋯? 一瞬そう思った。 だがそんな幻想はすぐに自ら打ち砕いた。 元来、傍若無人で歯に布着せぬ物言いのリリアンヌが、神妙な顔つきで机に向かってペンを走らせる姿などにわかに想像できようか。 いま、改めて考えてみる。 やはり彼女が何らかの想いを文字に変えて吐露している可能性はあるように思えた。 それを書いているのは文章きらいなリリアンヌではなく、エリザベートかもしれない。 またはソフィアか、アンリエッタでもいい。 別の人格が書いているとなれば、急に合点がいく。 名前で性格まで変わるとは信じ難いが、現にエリザベートの口調はリリアンヌではない。 このプティ・シャトーが醸す独特な雰囲気が、内面的なものにまで影響を与えているのだと言われるとつい納得してしまうくらい、ここは開放的で非日常な空間だった。 僕はこの平穏なひとときに紛れ、それとなくこの件に関してやや別の角度から話題を振ってみた。 「エリザベート様は近頃お勉強熱心なご様子ですね。筆記のお稽古でもされているのですか?」 僕の問いかけに、エリザベートの表情がみるみる変わっていく。 いや、戻っていったのだ、リリアンヌに! 「おおそうじゃ、忘れておったわ!お前にこれを渡さねばならんかったのじゃ」 そう言うが早いかリリアンヌはせわしげに立ち上がって書斎机から羊皮紙をひったくり、小ビンに詰めてそれを僕に差し出した。 大きく予想を外された僕は、半ば呆然とビンの蓋を開け、紙に書かれている内容を確認する。そこには⋯ 月曜日 色とりどりの山盛りマカロン 火曜日 アップルチーズタルトと黄金色のフィナンシェ 水曜日 いちごミルクのバケツプリン⋯? 「いい加減ブリオッシュにも飽きてきたのでな。来週はおやつ強化週間と銘打って、様々なおやつに挑戦してみようと思うのじゃ。食べたいものが多すぎて選ぶのに苦労したわい。わざわざこのようにして託した以上、お前ならそこに示してある通りに作ってくれるであろうな?」 ⋯そう、僕は誰よりも彼女のことを知っている。 彼女は食べることが、大好きだ。

秘密の城館

天使鈴さん

リリアンヌとアレンは双子ですが、現実ではあくまで王女とその召使という関係。 二人の間にある独特の緊張感(特にアレンが感じているもの)が、 リリアンヌの王族ならではの「おままごと」を通して描かれている良い文章だと思います。 最後にふっと力が抜けるような展開になるのも秀逸です。

入賞

イレギュラーはアカシックレコードの夢を見るか?

◇◇◇ これは夢だ。 早々に彼がそう確信した理由は他でもない。宮殿の廊下に、本来ならばいるはずもないものがいたからだ。 加えて、窓ガラスも割れているというのに他の侍従達が騒ぎ立てている様子は無い。 目の前の事柄全てがあまりにも不自然だ。夢なのだろう。今、彼の前にいるこの「熊」は。 地を這うような低い咆哮。漂ってくる不快な獣臭。 現実であれば、自身の命の危うさに心臓が縮みあがりパニックになっていたであろう状況下であったが、アレンはいたって冷静だった。 時間は少し前に遡る。 夢の中において、時間の概念があるのかは些か疑問ではあるが。 ルシフェニア王宮、鏡の間。天井を飾る国王と三英雄の天井画を時折見上げながら、アレンは鏡の間の清掃を行っていた。鏡の間と回廊には肖像画や歴史画、彫像が並んでいる。天井を見上げれば、レヴィン教聖書の内容を描いた天井画が広がっている。 この王宮は絢爛豪華であるが、アレンはどうにもこういった空間が苦手だった。 数年の間、豪奢とはかけ離れた城下町の家で暮らしていたからかもしれないと思った事もあったが、思い返せば幼い頃からどこか居心地の悪さを感じていた。生まれつき、あまり得意ではない。 まるで、「歴史に潰されそう」な感覚に陥るからだ。 額縁や彫像の埃を払い、窓や床、各装飾品を布で磨いていく。そんな最中、自身の背後に不穏な気配を感じ、アレンは恐る恐る振り返る──すると、そこには涎を垂らしてアレンを睨み付けた「熊」が立っていた。 そして、話は冒頭へ戻る。 人は何を恐れるのか。この空間と熊ならば、どちらが恐ろしいのか。 太い爪が大理石の床につく度に、ガツンと重い音を立てる。 (……どうしたものか) たとえ目の前の熊が夢であったとしても、襲われて爪で肉を抉られたり、顎で骨を砕かれたりするのは心地いいものではない。 いつか刃を向けた使用人からリリアンヌを守る際に使ったように宝剣で応対しようにも、今立っている場所からは、武器になりそうなものは遙か遠い壁にかかっている。取りに行くには少し時間が足りなそうだ。 (逃げるが勝ちだ) アレンは一目散に鏡の間から廊下へ飛び出した。 廊下を一目散に走り、突き当たりの大図書館へ逃げ込む。 (……っ、) 息絶え絶えに駆け込んだはいいものの、目の前に広がった景色にアレンは自身が逃げ込んだ場所に後悔した。 鏡の間と同じく、天井の高い空間。ここにも天井画が描かれ、壁にはいくつもの歴史画や宗教画が並んでいる。加えて、広いその部屋には天井近くまで背の高い本棚が所狭しに立っている。 鏡の間よりもここの方が酷い。 ──歴史が押し寄せてくる。歴史に、押し潰される。 背後で扉が開く音と、低い唸り声がした。思っていたより熊の足が速い。 後悔するのは後にして早く対策を取らねばと、移動式の梯子をたぐり寄せ、本棚の上の方へとあがっていく。 本棚の上に腰掛けて、本でも読みながらしばらくここでやり過ごせばいい。 天井に程近い一番上の棚に入っていた『エヴィリオス史』と書かれた本を手に取る。その、瞬間。 (────しまった) 本日二度目の後悔。そう思った時には遅かった。 本に手を伸ばした瞬間、ほんの少し足元への注意が逸れていた。 梯子の下にいつのまにか熊が立っており、体当たりをした衝撃で大きく梯子が揺れる。 アレンはその衝撃に足を踏み外し、梯子の上から空中に放り出された。 大図書館の天井は高い。つまり、天井近くまで伸びた本棚の高さも相当なものだ。アレンがいたのは本棚の一番上……落ちるだけでも、怪我をするには十分な高さだ。 (早く醒めればいいのに。こんな夢) 落ちる。夢だからか、スローモーションのようにゆっくりと本棚の間を落ちていく。 落ちながらにも関わらず、思考は冷静だ。 『本棚に囲まれた空間を落ちていく』なんて、どこかで読んだ童話のようだなどと思いながら、歴史が詰まった書物、それが無数に並んだ空間を落ちていく。 ふと、本棚がぐにゃりと歪んで見えた。 錯覚かと思い直そうとした時には、歪みは大きくなり、本棚はアレン目がけて倒れ込んでくる。 天井画や、壁の額縁も、アレンを中心にして引き伸ばされるように覆い被さってきた。 (潰される。……歴史に、物語に、押し潰される) まるで襲いかかってくるような重圧に、アレンは歯を食いしばる。 そして、息が詰まる程の衝撃がアレンの背中を襲い、視界に黒い幕が落ちた。 ◆◆◆ 「人は結局、何を一番恐れると思う?」 桃色の髪をした魔道師が紅茶を飲みながらそう言った。 少年は何も答えない。 「何が起こっているのか、起こるのかわからない……そんな状況に人は一番パニックを起こすわ」 ふわりとティーカップから紅茶の湯気と香りが舞う。 少年は何も答えない。 「ねえアレン、貴方は何が一番怖い?」 一瞬、魔道師の瞳の色が黄金色に光った。 少年は何も答えず──にこりと微笑んだ。 ◇◇◇ 「やあ。ご機嫌はいかがかな、アレン君」 頭上からかけられた声と、差し込んだ光。落ちるような感覚と共にアレンは目を開けた。 オレンジ色の空を背にして、男がアレンを──箱の中を覗き込んでいる。 悪夢のせいか冷や汗をかいた身体を起こし、アレンは立ち上がった。 「……あまり、良くは無いですね」 「酷い顔だ。怖い夢でも見たのかい?」 差し出された男の手を取り、引き上げられるようにアレンは箱の外へと出る。 赤い夕日が広大な黄金の稲穂畑を照らしていた。その景色にアレンは目を丸くする。 「……天界に朝夜の概念は無いものかと思ってました」 「おや? アレン君、ここで夕焼け見るの初めてかい?」 「ずっとこの中に閉じ込めてる本人が言いますか、それ」 「ははは、それは申し訳ない」 一欠片も申し訳ないと思って無さそうな調子でけらけらと男は笑った。 箱の蓋を閉め、男は箱の端に腰掛ける。アレンを隣に座るよう促し、どこから出したのかタンブラーに入れたコーヒーを飲み始めた。 ふわりとコーヒーの湯気と共に、香ばしい香りが舞う。 「それで? どんな夢見たの?」 「熊に追われる夢を。それから、歴史に潰される夢を」 「歴史に潰される?」 抽象的なアレンの表現に、男は首をかしげた。 「生前から、天井まで絵画や本棚で埋まっている広間とか、大図書館が苦手だったんです。全ての方向から、今までその国が歩んできた歴史、英雄の生き様や死に様……ありとあらゆる歴史と物語が、押し寄せてくるみたいで」 「ふぅん。歴史に潰される、ね。面白い例えだ。……アカシックレコードをつけっぱなしで寝るからそんな夢をみるんだよ。疲れたら電源を落としてから寝るといい」 「ええ。次回からはそうします」 ため息を一つ落とし、アレンは目頭を指で押さえた。 死後、魂となったアレンは、天界で隔離され過ごしていた。理由は分からない。だが、目の前の男が神に似た力の持ち主であり逆らうのは難しかったこと、加えて従えば双子の姉であるリリアンヌに会う方法を提示すると言われ、渋々従っているのだった。 男がアレンを幽閉したBLACKBOXのシステムの一つにアカシックレコードというものがあった。エヴィリオス地方をはじめ、この世界で起こった事柄をすべて記録する機能だ。 アレンは男に言われ、それを使って自分が生きた時代や生まれるよりも前の時代の事柄を学んでいた。 有名なヴェノマニア事件やバニカ=コンチータ行方不明事件、そしてルシフェニア革命。 大罪の器なるものの存在を知ったのも、アカシックレコードの記録からだ。 ドラマティックだと見入るものもあったが、しょうもないと切り捨ててしまい退屈に見つめ続けるだけのものもあった。今日も、アレンはそういったつまらない事柄を見続けて、電源をつけたまま寝落ちてしまったのだろう。 「でも驚いた。アレン君にも怖いものはあるんだね」 「僕はただの人間ですよ。怖いものなんて沢山あります」 「本当かい?」 男はからかうように笑う。アレンの眉間に皺が寄ったことにも、楽しそうな気配を隠さない。 その表情に若干苛立ちながら、アレンは生前の出来事を口にした。 「……生前、王宮で魔道師エルルカと話したことがあるんですけど。人は、『何が起こっているのか分からない』状況が一番怖いって。言い得て妙だなと思います。確かに、訳が分からないってのは、とても怖いですから」 自分が今置かれている状況を指してか、隣にいる男を指してか。 言いながら、皮肉めいた口調で言ったアレンの眉間の皺は更に深くなる。 「カミサマっぽいことを言おうか」 ふふん、と男は上機嫌に鼻を高くしながら立ち上がると、タンブラーをどこかにしまい両手を開いて語り出した。 「人が恐れるものは、大いなるもの……即ち不可解なものだ」 「……それはイコールで繋げていいんですか」 「勿論。自分よりスケールの大きいもの、次元が一つ大きいもの、須く理解するには不可能だ。抗うことさえ出来ないと理解する……否、理解できない者だっているだろう。だから不可解。だから、恐ろしい」 口元に三日月を浮かべ、男は続ける。 「人間にとっての『her』であり、悪魔であり……そして、神もそうだ」 「その”不可解なもの”を恐れるなら、やはり僕は貴方を一番恐れなきゃですね」 「……いいね。何事もその気概で挑むといいよ、アレン君。世界は案外、恐ろしいものの方が多いんだからさ」 自身を睨み上げたアレンを見て、けらけらと男は笑う。 「それから」 言って、男は箱の上から稲穂畑の広がる地面へ飛び降りる。 振り返り、変わらず笑みを浮かべながら、疑念の目を向けるアレンをゆっくりと指差した。 「僕にとって『君』も、十分”恐ろしい”よ。それも覚えておくといい」 夕日の色を溶かしたような、黄金色の稲穂が揺れる。 アレンは何も答えず──にこりと微笑んだ。

イレギュラーはアカシックレコードの夢を見るか?

たるみやさん

他作品のテーマを軸にアレンの心情を描くというやや変化球ぎみな作品ではありますが、 導入から展開まで、非常に惹きつけられる文章でした。 「悪ノ」ワールドのキーワードが散りばめられていて、わかる人なら思わずにやりとしてしまうのではないでしょうか。 「歴史に潰される」という表現が個人的には好きです。

特別賞

悪ノ娘の処刑人

プロローグ 興味深い事実は多くあるが実際に公表することのできる話はほんの一部だ。 その一部の中には真実を語っているとは言い難いものある。果たしてどのような形になるのか…私にも分からない。 現在、取材を進めてはいるが世に出すことは困難であろう物語を以下に記す。 鏡の中の住人 塔に夜は来るか プラトーの花 その町に秘密はあらず 悪ノ娘の処刑人 -ユキナ=フリージスの手記より 1 私は悪くない。 いつもと同じ言葉をお呪いのように心の内で唱えながら紐を緩めた。 刃を押さえている紐の掛け金を外せば、勢いよく落下した刃は一撃で首を切断する。 目の前で起きた人命の消失は、かの王女の下では珍しくもないことだった。 ああ、私はいつまで、罪のない人の首をはね続けるのだろう? 胸中で嘆きながら、自然と目はルシフェニア王宮へ向いていた。 死刑執行の合図となったレヴィン大教会の三時の鐘が鳴り響いている。 この亡骸の刑罰は、あの尊大な建築物内の「音の間」という場所で王宮と同じぐらい尊大な人物によって決定された、らしい。 いや、自分の目で確認したわけではないが場所と人物に関しての情報は誤りではない。 王の住処が立派であることは何の問題もない。問題なのは王のほうだ。 リリアンヌ=ルシフェン=ドートゥリシュ。ルシフェニア王国を統べる王女。 罪人の多くは政治家や使用人であり、彼らの罪状は様々だ。共通点は偉大なる王女様の機嫌を損なったこと。つまり、彼女が気に入らない人間が裁判にかけられる。判決はほとんど確定しているため茶番と言って間違いないだろう。 その茶番の例外は親衛隊長レオンハルト=アヴァドニアのみ。私はその三英雄の一人が事切れる様を最も間近で見ることになるのではないか、と怯えている。 先月は17人、その前の月には28人もの人間がギロチンにかけられた。 今日、絶望を絵に描いたような表情で断頭台の露と消えたのは使用人の少年だった。王女殺害を試み、失敗に終わった。 彼がどのような理由で王女に刃を向けたか、私は知らない。 罪人は与えられた最後の時間に面会人と言葉を交わす場合もある。今回の少年には赤髪と金髪の少女が別れを告げに来た。同僚の使用人で、しかも王女付きだという。 「王女付きの使用人」。そう呼ばれる人物を目にするたびに私の中である思いが高ぶる。 -私はお前たちと同じだ 王女の命令を実行する存在。刃向かう権利など最初からなく、そこに善悪はない。 そう、騎士だって同じだ。戦で人を殺めることがあるため、より我々と同類である。 だから私は唱えるのだ。「私は悪くない」。 たとえ無実の人の刑を執行したとしても、その意思決定は王女にある。悪いのは彼女だ。 正に-『悪ノ娘』。民衆が囁く呼び名は正しい。 だから、 私は悪くない。 私は悪くない。 私ハ悪クナイ。 2 ミラネ広場は多くの人々で埋め尽くされた。 彼らは自らの頭上に立つ人物へ罵声を浴びせていた。玉座から処刑台へ引きずり下ろされた王女へ。 レジスタンスに始まり、ほとんどが貧民階級の人間から編成された群衆。 最初、彼らはただの反乱軍に過ぎなかった。しかし、小さな火種は多くの人間を巻き込み、屈強な傭兵団、騎士団を燃やし尽くした。 革命は成功したのだ。そして、今日は皆で祝われる日となるだろう。 『悪ノ娘』の誕生日の前夜祭ではなく、彼女が暴政の果ての死を迎えた日として。 王女は青い空とギロチンの刃を見上げると、素直に指示に従った。うつぶせに寝かされ、首と両手首を固定される。 「もうすぐ時間だ。レヴィン大教会の鐘が三度鳴った時、処刑は執行される」 王族扱いすることなく、他の罪人と同じ口調で告げた。 相変わらず罵声は続く。普段とは異なる状況でも、すべきことは変わらない。敵意をむき出しにする民衆の中、抜け殻のような女剣士の姿をふと見つけた。 昨夜、彼女は青髪の男と共に我が家を訪ねてきた。王女の処刑日時を告げるために。革命の英雄と見るからに高貴な身なりをした人物がする仕事ではないだろう。 二人は何があっても明日の処刑を完遂するように要請してきた。成る程、王女の逃亡の手助けをしないよう圧力をかけるためか。その気は毛頭なかったが。 来訪者への驚きと疑問が沸き上がり、それが解消された後に感じた別の引っかかり。 こちらは答えを得ることは出来なかった。…今なら、処刑台の上の今なら分かる。 『王女』を初めて見た時、この熱狂の全てが陳腐と化す真実を知ったような気がした。 「そろそろだ。王女、最後に言い残すことはあるか?」 多くの人の最後を事細かに見てきた。貧富、職業、老若男女問わず。そうして人を見る目は養われた。 王女の仕草や歩き方。昨夜の二人の表情。晴れやかとは言い難い、何かを抱えたような。 王女に感じた違和感。いや、彼女は『王女』ではない。何故なら『彼女』は-。 「時間がない。王女、これが最後だ。神に願うことはあるか?」 言ってしまえ。そのような思いを込めて二度、『王女』と呼んだ。 真実を言えば、また全てがひっくり返る。また動乱が起こる。また血が流れる。 皆、己が「正義」のために戦った。皆が皆、等しく血で汚れた。私たちと同じく。彼らが「正義」ならば私たちも「正義」である。この処刑は皆が望んだもの。悪ではない。 私は悪くない。私は悪くない。私ハ悪クナイ。 言ッテシマエ。言ッテシマエ。言ッテシマエ。 モシ、オ前ガ身代ワリナラバ本物ガドコカニイルダロウ。 悪ノ娘ガ生キテイレバ、アノ茶番ガモウ一度- 3 ルシフェニアの北西部に広がる迷いの森は土地勘のない人間が足を踏み入れると、まず間違いなく道に迷う。少数ながら森の中で生活している人もいるが、あまり人気はない。 一時期、この森を根城としていた盗賊団やレジスタンスには好都合だったであろう。 彼らやエルフェゴート侵攻といった理由で森に立ち入ることを諦めた時期もあったが、今は安心して目的地を目指すことができる。森に入った目的は、また森だ。 エルフェゴート国南西部の千年樹の森。迷いの森はこの森と繋がっている。 千年樹の森には、その名の通り巨大な樹木が生え、レヴィン教エルド派の巡礼地となっている。 私は別にエルド派信仰者ではない。この宗派は主流であるレヴィア派の四分の一程度の信者数だ。数が少なければ他人と顔を合わせることも少ないだろう、というただそれだの単純な考え。それが巡礼地を訪れる理由だが、一応祈りは捧げている。 神なら誰でもよかったのかもしれない。ただ、偉大な存在にすがりたかった。そして、可能であれば問うてみたい。 …私に罪はあるのか。その罪はどこへゆくのか。 広場のように開けた場所に出た。目的地に来るまでに人と遭遇しなかったことに、安堵のため息をつく。休日まで蔑みを湛えた目に見られることなどしたくない。森の住人は処刑人の顔など知らないだろうが、それでも体が拒否していた。 千年樹の隣には小さな木が生えていた。樹木に詳しくはないが、恐らくあの修道院にあったものだろう。 港町にあるルシフェニアでは珍しいエルド派の修道院。 革命後、同様の理由で訪れたそこで天地がひっくり返るような衝撃と出会った。 苗木に水をやる二人の修道女。その片方、金髪の女性とよく似た顔の人物の首は、私がはねた。 思わずその場で立ちすくみ、家に帰ってからも部屋に籠り自らに問いかけた。 幽霊か赤の他人か、はたまた私の頭がおかしくなったのか。幾つかの仮説を並べたが、最も有力な答えは初めから頭に思い描かれていた。 それを受け入れた時の感情は、覚えていない。 私はそれを告発するつもりはない。一人の女性の人生を破壊したくないというものではなく、処刑人は罪人の処刑を遂行するだけで、その罪を問う者ではない。 人に問われたとしても、私が真実を口にすることはないだろう。人生や思い、或いは革命前夜の訪問者は語るかもしれない。しかし「王女」の違和感や現在の居場所は、決して。 祈りを済ませると、ぼんやりと千年樹を見上げた。 人には会わなかったが神に見られているという意識からか、または処刑のことを思い出したからであろうか。いつもの言葉が自然と口から出た。私は悪くない。口癖になってしまったようだ。心底からのものであるため、駄目ではないのだが。 それでも、自らの職務に対する罪の恐怖はある。処刑人が正義の刃であるべきとは理解しているが、これまでの処刑が全て「正しい」ものであったとは言い切れない。 今、世を支配するのは人間であるが、死後の世界については分からない。もしも、処刑人に罪が存在するならば…。 あの修道院長に身分を明かしたのは、それが理由だった。神の答えが知りたかった。 結局、聖職者の見解はあまり納得できるものではなかった。やはり、私自身の意識の問題なのかもしれない。そう確信出来れば、私の不安は払拭されるのだが。 そう。私は。 罪はあるかもしれないが、悪ではない。 エピローグ エルルカ=クロックワーカー様 お久しぶりです。貴女とグーミリアさんはどちらにいらっしゃるのでしょうか? 居場所ぐらい教えてくださればいいのに。魔術とはいえ、宛先の分からぬ手紙を書くということは不安でしかありません。 こうして筆を執った理由は私の家族ではなく領域外の出来事に遭遇したためです。 私は『悪ノ娘』の死刑を執行した処刑人を取材しました。男性は修道院長のイヴェットに身分を明かし、その後も度々修道院を訪れているというのです。彼女を心配したクラリスからの手紙がきっかけで、彼の真意を知りたいがため取材という名目で接触しました。 修道女の友人と知ると男性は丁寧に私の質問に答えてくださいました。革命前夜、王女処刑。『悪ノ娘』の処刑に関しては処刑人としての領域にとどまり、個人的な話は聞けませんでした。 私の実感の限りですが、彼は真実を知っているようです。恐らくリンさんの正体についても気付いているでしょう。今のところ、この事を世間に公表する気はなさそうですが。 続けて話題は自身の人生となりました。ここで問題が起こったのです。 唯一の不可解な点であり、貴女にご相談したいこと。それは彼の口癖に関係しています。 「私は悪くない」と常に言い聞かせる。お呪いのような口癖。 …実はそのお呪いで頭が一杯になり、処刑台の上での出来事は正直あまり覚えていない。ギロチンを作動させたことすら。罪人の姿も死後のものしか記憶にない。 もしかして紐を緩めているのは私ではなく、もう一人の私かもしれない。 馬鹿馬鹿しい考えではあるが、私は人の死を嘆くことはあれ、自らの仕事を不幸とは思わない。仕事に関する不満といえば…人々の目ぐらいか。死が己の生業にあるものだとの実感は薄い。執行しているにもかかわらず、だ。 それはお呪いがスイッチとなり表に出て来た人物、自覚できない「もう一人の私」が処刑を請け負っているからではないか? 処刑に関する記憶が制限されているのは、こうした理由なのではないか。 処刑人として差別される苦悩。革命の当事者になるかもしれなかった使用人の処刑。その話の中で語られた言葉が上記のものです。これは明らかに矛盾しています。 彼は僅か数十分前、処刑の状況を詳細に説明してみせました。執行日時、罪人の表情、面会人の髪色…。憶えていないというならば何故これらの情報を語ることができたのか。この不一致を問うても不思議そうな顔をされるだけに終わりました。とぼけているか、まさか痴呆かと疑いましたが、そう思えないほど詳細な説明だったのです。白を切るならば、それは必要ないでしょう。 確証はありませんが、彼の中で王女と修道女が結びついているならば、それに至る理由があったはずです。記憶がない状態で、どうやって真実に気づいたのでしょうか。 順調に進んでいた会話が途切れた原因を、彼は本当に認識していないようでした。 その時、私はグーミリアさんの顔を思い出しました。 男性は『転身の術』により一つの身体に二人分の精神が宿った…アビスI.R.の妨害に遭ったエルルカさんのような状態なのではないか。あの時の貴女方の正確な精神状態は私には分かりませんから、思い過ごしだと笑い飛ばされるかもしれませんね。 ですが、その仮説に至った理由がもう一つ。 彼の「お呪い」の意味の片方は自らが悪ではないと正当化するためです。 国命とはいえ人命を奪う宿命を背負わされた苦しみからのもの、とも見えます。しかし彼は死を悼めど、罪悪感は抱かないのです。苦しみは内的ではなく外的な、処刑人に対する差別を不服とする思いからでしょう。 修道院長に対しても懺悔することなく、自分は罪人なのかという問いが多いそうです。 自らの生業故に死後の審判を恐れてはいるが-。前置きの後、彼は言いました。 私は王の意思により刑を執行する。悪ではない。 私はもう一人の私の行動により処刑する。悪ではない。 私は悪くない。 矛盾する話と湧くことのない罪悪感。 この二つの不可解さから『転身の術』を受けた処刑人なのではと思いましたが、別人となったような違和感も男性の魔術との関わりも見られません。これはフリージスの情報網の限界なのかもしれませんが、怪しい人物が浮上することはありませんでした。 魔術師の所業でない、生来の状態なのでしょうか。医者ならば罪悪感から逃れたいがための精神的な防衛が働いた結果、と診断するかもしれません。 そうであっても、この処刑人を異常者だと断定するつもりはありません。しかし、私は「もう一人の私」が気になるのです。 処刑台の上でしか現れぬ精神。まるで殺人のための人間です。 もし『悪ノ娘』の正体に気づいていたのであれば、何故それを白日の下に晒さなかったのか。教えるべき人物は目の前に、山ほどいたというのに。処刑を続行した真意は。 此処までの処刑人の話、私の考えをまとめた上で疑問が浮かびました。 -処刑を実行している人物はどのような感情を抱いているのか? もし、「彼」が殺しを望んでいるのであれば、それは「her」なのではないか? 死とは切り離された場で、私に過去を語った処刑人は「本来」の人物なのか。 「本来」と言える程、確固たる精神がまだあるのか。既に浸食されているのではないか。 果たして、人格のスイッチを押しているのはどちらなのか。 貴女の見解をお聞かせください。可能な限り即急なお返事、または再会を願います。 ユキナ=フリージス

悪ノ娘の処刑人

センリさん

本編にちょっとだけしか登場しないモブキャラから見た「悪ノ娘」の物語、という独特な作品。 実は「処刑人」を主人公としたストーリーというのは僕自身も考案していた時期があったので 興味深く読ませていただきました。 ただもはや本編主要キャラよりも処刑人の方がメインとなっており、今回の規定から少し外れてしまっている気もしたので 特別賞とさせていただきました。

公式コラボニュース

公式コラボニュース一覧(初音ミク公式ブログへ)

過去の公式コラボ

過去の公式コラボ一覧

赤い羽根共同募金ポスター illustration by 羽雪

初音ミクトランプ illustration by 第三王女 / 椎矢ほろ / Black / 走れ

© SEGA「みくずきん」(デザイン:Tda)記載の商品名および社名は各社の登録商標です。

「番凩おにぎり」illustration by 由杞 / 「番凩」by hinayukki@仕事して P / メニュー原案:アサギ / メニュー開発 PJ イラスト:またたび団子 © SEGA ※現在この商品は販売しておりません。

「Happyくじ 初音ミク 2014 Autumn Ver.」【E賞】メラミンプレートセット illustration by MISONI ※現在この商品は販売しておりません。

「初音ミク ぐらふぃコレクション なぞの音楽すい星」敵キャラクター illustration by よいし

雪ミク2015衣装原案:たらん / ラビット・ユキネ2015衣装原案:羽雪 / ラビット・ユキネ原案:nekosumi

なりきりイヤホンアクセサリ原案: 日々花 / ネギふりキャンディー原案:水っぽいスープ/ illustration by sangsong

2015年ピアプロカレンダー illustration by こざくら

▲TOP