乞福症に処方【ドクター=ファンクビート/nyanyannya feat.KAITO】
無秩序に増殖する建物の群れの底、空気は澱み、ひどく雑多で汚い、底辺の町。ひしめく建物の隙間に渡された物干し竿にはためく色の褪せた洗濯物。建物の側壁に貼り付いた室外機の群れ。露店が連なる路地の奥で怪しくうごめく気配。澱んだ水から立ち上がる生臭い臭気。
ふてぶてしさを感じさせる女たちの喧しい声。肩がぶつかっただけで舌打ちを落とす若者の忌々しさ。
最下層の吹き溜まり。行く当てのないものが辿り着く地。全ての猥雑さと喧騒と不快と快楽をかき集めて煮詰めてぶちまけたような、この町はまるで生きることに貪欲な獣の腹の中のよう。
絶対的に不愉快で、それでいて、この場所にあるものすべて、どれもこれも『生』の匂いに満ちているこの町の雑踏の中を、一人の少年がくたびれた足取りで歩いていた。
まだ大人と呼ぶには少し早い歳の頃。ひょろりとやせた体に大きすぎるTシャツと膝のあたりで切ったズボン。伸ばしっぱなしの長い前髪も、無造作に首に引っ掛けたヘッドフォンも、取り繕うこともしない疲れた顔も、この町ではよく見る姿だ。