色(小説版)―前編―
その少女は、口元を引き締め、踏切の傍らにじっと佇んでいた。
冬の風に揺れるセミロングの金髪と、頭の上で結ばれたリボンが目を引く少女だった。どこか遠くを見つめる瞳は透き通った青。硝子のようなそれに、目の前を猛スピードで走り行く電車が映る。映っているのに、見ているはずなのに、少女の視線はまるで電車が見えていないかのように、ただただ、宙を見つめるばかりである。そんな、傍から見れば奇怪極まりない少女を、周囲の人々は無視して開いた踏切をわたっていく。やはり少女は、動かない。
と――ふいに、少女の口がかすかに開いた。
「――」
しかし、そのちいさ過ぎる声は踏切を横断する人々の声や足音にまぎれ、すぐに消えてしまう。それを気にする様子もなく、少女は再び口を閉ざした。