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【KAITO】この世界のはじまりは2

 考え事をしていると時間というのはすぐに経ってしまうようで、いつの間にか彼女さんの作業は終わりを迎えていた。指をポキポキ鳴らしながら「さぁ…いくわよ」なんて意気込む姿はなんだかかわいい。僕は、今の僕の持てる最高の技術で応えたいと素直に思った。
 曲は、やはり時期的に出てきやすいのか、奇しくもさっきまで僕が歌っていたあの歌だった。いつも歌っているよりも少しだけ力を入れて音符をなぞる。マスターの持っているクセとはまた違うクセを彼女さんは持っているようだったから、音符をなぞるだけでなく、そのクセも間違えないように慎重につたう。つたうことに集中しているとピッチが疎かになってしまうから、それにも気を使う。僕の中で「0」と「1」がスピードを上げてゆく。ただ歌うといっても、人間の前で歌うにはそれなりの動力が必要なのだ。
 そして久しぶりの完唱。
 最後の一音を出し終わって彼女さんの顔を見てみると、なんだかポカンとしている。なんだろう。いつもマスターが見せる「まずい」という顔ではない。僕は人間のそんな顔をこんな場面で初めて見た。感情を測れないことは本当に不安だから、何でもいいから何か喋ってほしい。
「……KAITO君」

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2012/04/29 01:28

【MEIKO】この世界のはじまりは

「初めまして、マスター。私の名前はMEIKOです」
 目を開けた瞬間に飛び込んできたのは、無限の白だった。白い床に、白い天井。そして白い壁。三半規管を混乱させないための最小限の機能が備わっているだけの世界に、私は放り出されていた。
 放り出された、という認識はもしかしたら間違っているのかもしれない。私は、その白い世界でどうやら眠っていたようだった。後頭部が床に付けられている。背中も、かかとも、肘も床にぴたりとくっついているあたり、それほど無下に扱われたわけでもなさそうだ。見た目ののっぺりした床に冷たさは感じないが、だからといって温かいわけでもない。無機質を絵に描いたような空間とはこんな場所をいうのだろう。何もないところに私一人。ここが、どうやら与えられた新しい世界のようだった。
 目が開いたので、ほかの部位も少しずつ動かしてみる。首。手の指。手首。肘。肩。腰を捩って、足の指、足首、膝、股関節。全ての関節が動くことを確認してから、私はゆっくりと上半身を起こした。
 少しだけ、視線の高くなった世界。そこもまた、当たり前のように真っ白の世界。頭に微かな鈍い痛みを感じるのは、起動した直後だからだろうか?特に気にすることはないだろう。それからさらに立ち上がってみても、空間に対して持った認識は変わらなかった。視界はだいぶ高くなって、ずいぶん遠くまで見渡せるようになったけれども、白さはどこまで行っても変わらないようだった。ここで私は、これから何をすべきなのだろうか。 

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2012/04/24 21:38

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