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狭い小鳥の籠の中にて 第六話

 日は既にもう、かなり落ちていた。りんは小走りに、人の行きかう道中を廓に向けて進んでいた。薄暗い夜の始まりに、道行く人の中にもまばらに提灯の明かりをつける人もいて、そこだけ浮かび上がるように明るく見える。足元の暗いのに注意を払いながらも、小柄なりんは、人々の間をすり抜けるようにして、込み合う道でも割合に素早く進む事が出来た。
 この調子ならば、廓の入口の赤提灯の明かりが灯る前に帰りつけると、少し気を緩めた時だった。ふと、その目の端に何か彩りの華やかなものが踊って、思わずそれに目が吸い寄せられてしまった。振り返ってみれば、それはただの出店で、明るく提灯のつるされた店先に色鮮やかな小鳥が、籠に入れられて並べられていた。
 それに意識を取られていたせいだろう。あ、と思った時にはりんの足は小石かなにかに躓いて、体が跳ね跳んでいた。草履が脱げて、地面に散らばる。その上を、容赦なく人の足が踏みつけて通って行った。
 「ああ」
 りんが上げる声を聞く者はいなかった。慌てて身を起こすけれど、擦り剥いた膝小僧や肘が痛くて顔をしかめた。それでも這うようにして手を伸ばして拾った草履は人の重みで半分に割れて、到底使い物になりそうもなかった。

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2010/01/03 12:55

狭い小鳥の籠の中にて 第一話

 目が覚めたのが、辰の刻を回ったところだった。布団から重たげに身を起こし、のったりと頭を動かして、自分が目を覚ました原因を探った。外に面した窓の障子を通して白い日差しが布団の上に斜めに差し込んでいるけれども、それはいつもの事だから、それが原因ではない。眠るのが明け方近くだから、いつも昼前までは床の中にいるのが常なので、多少の日差しには慣れてしまっている。
 目が覚めた原因はすぐに知れた。障子の向こう側、窓の外から騒々しい諍いの音が聞こえて来たからだ。店の若い衆であろう男たちの声に混じって一人、甲高い、まだ幼いような声が耳を刺す様に響いている。
 みくがため息をついて、長い髪が床一杯に流れるように広がっているのを気だるげに手でかきあげながら身を起こすと同時に、部屋の出入り口の障子に細い隙間が出来て、そこから一層明瞭な光が差し込んだ。それはすぐに静かに広がって、白い足袋がその下のほうから顔を出す。
 「あ、みく姐さん。もう起きていらしたんですか? 今火を持ってきたばかりだから、部屋が暖まるにはもう少しかかってしまいます」
 恐縮した様子の相手に眼差しだけで少し微笑みかけて、みくは軽く首を横に振る。

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2009/12/31 23:27

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