狭い小鳥の籠の中にて 最終話
暗い夜空に小鳥を放すと、瑠璃の小鳥は空に向かって一直線に飛び立って、暗い空の中に溶けて行った。りんはひととき、その姿を目で追って、空を見上げて立っていた。
そして、戻ろうときびすを返したところで、それを見つけた。見つけてすぐに、顔色を変えて走り出した。
息せき切って、人ごみをかいくぐり、時にぶつかりながら、廓への道を走った。遠く見える廓の方角の空が、町中にいるこちらからでも判るくらいに明るく、はっきりと橙に輝いている。あれは、火の色だ。家屋を焼き尽くす、炎の色だ。
嫌な予感が胸を締め付けて耐えられなかった。
ぶつかった人の怒号を聞き流し、泥を跳ね飛ばし、ただ力の限りで走る。途中、何かに躓いて一度体が宙を待ってから道に横転した。それもものともせず、すぐに跳ね起きて走り出そうとして、草履の鼻緒が切れてしまっている事に気がついた。躊躇(ちゅうちょ)は一瞬、それをぬいで指先にひっかけると、素足で地面を踏んで、また駆け出した。