目白皐月さん

しがない文章書きです。よろしくお願いします。

投稿作品

リトルコンピュータワールド 第二話【公園のブランコ】

 自宅を出たレンは、あてもなく街の中を歩いた。パソコンの中の仮想現実の街。建物のほとんどはお飾りで、中には入れない。一部、店などもあるにはあるのだが、店員はいない。そして、売られている品物がどこから来るのか、それは誰にもわからない。
 考えてみれば実に奇妙な空間だが、レンはそれを疑問に思ったことはない。何しろ「そうなっている」のだから。
 ただひたすらに、道を歩く。だが、歩いても歩いても、気分は晴れなかった。むしろいっそう沈んでくる。思い出すのは、最後に見たリンの顔。涙を浮かべて、こっちを睨んでいた顔だ。
 リンのイメージを振り払おうとしながら歩くうちに、レンは小さな公園にたどりついた。緑の多い自然公園ではなく、子供が遊ぶ遊具が置いてあるタイプの公園だ。子供などほとんどいないのだが、メイコから聞いた話だと、彼女が始めてこのパソコンにインストールされた時から、ずっとこの公園は存在しているのだという。レンは深く考えずに公園に入り、ブランコに座った。そのまま軽く漕いでみる。
 ブランコをこいでいるうちに、レンは昔のことを思い出した。昔といっても、レン自体そんなに長い時間を生きて――プログラムにこの言葉を用いていいのかどうかはわからないが、レン自身は自分を生きていると認識している――いるわけではないのだが。とにかく、このパソコンの中にリンと一緒にインストールされてから、そんなに経っていないときのことだ。パソコンの中の世界が珍しくて、リンと二人であちこち歩き回った。そうしてこの公園を見つけて、二人で日が暮れるまで遊び回った。シーソーや滑り台で遊んで、それからブランコをどちらが高くまで漕げるか競争した。絶対に勝とうと必死になった結果、レンはバランスを崩してブランコから落ちて、額を強く打ってしまった。リンはすぐにブランコから降りて、激痛でうずくまる自分に、心配そうに付き添っていてくれた。

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2013/04/11 19:23

昔話リトールド【金色の魚】その十

 その光があまりにまぶしかったので、レンは思わず目を閉じてしまいした。やがて光が治まったので、レンは目を開けました。
「え……?」
 景色が、まったく変わっていました。いえ、いるのはあのお屋敷の庭です。でも、目線が今までと比べて、ずっと高くなっていました。そのため、景色が変わって見えたのです。
 ……それだけではありません。目の前に、リンがいました。でも、今までのように、リンの顔を見上げるのではありません。正面から、リンの顔を見ているのです。リンはというと、胸の辺りで手を握り締め、驚いた表情で、レンを見ていました。
 いったいどういうことなのでしょうか。疑問に思ったレンが何気なく視線を下げると、自分の手が視界に入りました。思わず手をあげ、眺めます。そう、今のレンには、手がありました。それだけではありません。水の外に出ているのです。今、レンが立っているのは、あの池のほとりでした。鏡のように凪いでいる水面を見ると、人影が二つ映っています。片方はリン、もう片方は自分でした。魚に変えられてから六年も経ってしまったせいで、ずいぶん成長してしまっていますが、自分であることはわかります。

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2013/03/30 18:44

昔話リトールド【金色の魚】その七

 リンがお屋敷で生活し、魚の姿のレンに助けてもらうようになってから、少しずつ、時間は過ぎて行きました。リンは相変わらず厨房でこき使われ、罵声や暴力を浴びせられていました。そしてレンは、そんなリンを見守ることしかできませんでした。
 毎晩、リンはレンのところにやってきて、レンと話をしながら食事を取り、明け方まで眠りました。朝が来る度、リンを送り出すのが、レンは辛くてなりませんでした。
 お屋敷に来て、三度目の冬がやってきました。初めて会ったころと比べると、リンは背が伸びて、女の子から、少女に変わっていました。レンは成長していくリンを見るにつれ、嬉しいような、淋しいような、そんな奇妙な気持ちになるのでした。
 このお屋敷の奥様にも、娘が一人いました。リンより二つ年上のこの娘は、母親の影響を強く受けているのか、腹違いの妹であるリンに、辛く当たりました。リンはどんなことを言われても、何をされても、じっと耐えていました。
 リンの異母姉であるこの少女は、きれいな顔立ちをしていました。周囲の人たちも、彼女を美しいと誉めそやしました。そのせいか、異母姉は、毎日のように鏡を覗き込み、わが身を飾ることに余念がありませんでした。

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2013/03/03 18:12

昔話リトールド【金色の魚】その四

 リンは、まだ鍋を磨いていました。他の人たちは仕事を終わらせたらしく、残っているのはリン一人です。やがて、鍋が綺麗になりました。リンは鍋を戻すと、床に座り込み、顔を覆いました。肩が細かく震えています。どうやら、泣いているようでした。
 レンは、辛い気持ちで、リンを眺めていました。今のレンは、リンに何もしてあげることができません。できることなら、リンを助けてあげたい。そうでなくとも、せめて慰めの言葉をかけてあげたい。レンがもともとの人間なら、リンを助けることは簡単でした。でも、今のレンには、何もできないのです。
 しばらくすると、リンは立ち上がって、涙を拭いました。それから、調理台の上に置いてあったパンを手に取ります。リンはそれを半分に割ると、勝手口から、庭に出ました。レンは、リンの後を追っていって、はっとなりました。リンが向かっているのは、魚のレンが暮らしている池に違いありません。だいたいいつもこれくらいの時間に、パンをくれるのですから。今、自分の身体がどうなっているのかわかりませんが、反応がなかったら、リンはきっと、ショックを受けるでしょう。リンはこんな毎日を送っているのに、自分にかかさず、パンをあげに来てくれていたのです。
 どうしよう、そう思った時、ルカの声が聞こえました。
「意識を戻すわよ」

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2013/02/12 00:00

昔話リトールド【金色の魚】その三

 それからというもの、リンが昼にやってくることはなくなりました。来るのは夜になってからか、まだ明ける前のどちらかです。そして、細かくしたパンを池に投げると、あわただしく行ってしまうのです。今までのように、池のほとりにたたずんで、レンを眺めながら、あれこれ話してくれるということはなくなりました。当然、歌を歌ったり、絵を描いたりすることもです。
 レンは、リンの訪れが減ってしまったことや、話をしてくれなくなったことが、淋しくてなりませんでした。魚になってしまってからというもの、レンは誰とも話をしていません。リンに話しかけることこそできなかったものの、自分に話しかけてくれるリンの声を聞くことが、今ではレンの何よりの楽しみとなっていました。
 レンはしばらくそうやって淋しがっていましたが、やがて、リンの様子が変わってきたことに気づきました。今まで、ちゃんとした格好をして身ぎれいにしていたのに、明らかに、着ているものがみすぼらしくなり、全体的に薄汚れてきていました。きれいな金髪も、汚れて輝きを失ってしまっています。
 それだけではありません。以前と比べて、リンは明らかに痩せてきていました。表情に苦悩の色が濃くなり、かつてのような明るい笑顔を見せることは、まったくといっていいほど、なくなりました。餌をくれる手はがさがさに荒れてひび割れ、身体のあちこちに、傷や痣ができているのも見てとれます。
 レンは不安でなりませんでした。リンの身に、何かが起きているのです。でも、それが何なのか、リンは教えてくれようとしません。言葉を伝える術があれば、レンはリンを問い詰めていたでしょう。でも、魚であるばかりに、それができないのです。

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2013/02/11 23:59

昔話リトールド【熊のお姫様】その三

 隣国の城で暮らすことになったメイコは、相変わらず熊の姿のままでしたが、楽しく暮らしていました。城の人たちは、最初はメイコに怯えていましたが、王子であるカイトが熊と親しくしており、またメイコの方も、重い物を運んだり、小さな子を背中に乗せたりと、城に溶け込む努力をしたので、次第に城の人たちも怯えなくなっていきました。
 と、まあ、そんな感じで、隣国の城では、平和な時間が過ぎて行きました。メイコもここでの生活を楽しんでいましたが、ずっと熊の姿でいるのも疲れます。そんなわけで、メイコは夜遅くなってから、時々こっそり人間の姿に戻っていました。
 そうやって、メイコが人の姿に戻ってくつろいでいたある夜のことです。その夜、カイト王子は、どうにも寝付くことができず、起きていました。風にでも当たろうかとバルコニーに出たカイト王子は、庭に見たことのない美しい女性がいたので、驚いてしまいました。
 その女性が誰なのか確かめようと、カイトはあわてて庭へ駆け出しました。ですが走る足音を聞きつけたメイコは、身の危険を感じて、既に熊の姿に戻ってしまっていました。庭にやってきたカイトは、そこに熊しかいないのを見て途方にくれました。庭を探してみても、どこにも誰も隠れていません。そんなカイトを、熊はじっと眺めていました。
 やがて探し疲れたカイトは、熊のところに戻ってきました。その視線が、熊に止まります。熊は動かず、ただカイトの方を見ていました。

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2013/01/30 18:26

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