月を見た鳥
一羽のカラスがいました。
カラスはある日、人間たちに捕まり、動物実験の対象にされてしまいました。
カラスは奇妙な小屋に入れられたのでした。年中薄暗く、至る所に変な図形や模様が描かれています。どうやら殺されはしないようですが、カラスは窮屈で仕方ありませんでした。
カラスは毎日、同じような"図形"を人間たちに見せられました。朝昼晩と、餌を与えられるとき、窓が開く時、水を飲む時、何度も何度も、"図形"はカラスの視界に入りました。毎日毎日、狭い小屋と質素な餌と、"図形"ばかりが繰り返されました。
カラスはだんだん、頭がおかしくなっていきました。冷静に考えることもできなくなった頃、"図形"はカラスの思考から外れました。"図形"はカラスの生活の一部となってしまったのでした。"図形"は夢の中にも現れ始め、何もないところにも"図形"が見えるようになりました。餌の形も、部屋に転がる物体の全て、さらに自分さえも"図形"と同じに見えてきたのでした。そう、カラスは狂ってしまいました。