蒼碧
最優秀作品《その青は魅せる》
彼が描いた最後の作品だった。暗い森、見守るような月、吸い込むような湖、そして幾重にも重なった蝶からなる一輪の青いバラ。明るい色調の絵画が多く出展された中、その絵は際立って人を惹きつけていたらしい。
あの絵を書き上げて以来、彼は今まで一度も筆を手にすることはなかった…
彼はダイニングの壁に掛けられたその絵を見ながら思い出に身を委ねていた。--いや、もしかするとその絵のもっと向こう側を見ていたのかもしれないのだが
この絵を見た人間のお決まりのありきたりな感想なんかは覚えてもいない。そんなことに記憶力とやらを発揮させるのならもっとマシなものを覚えることに使うだろう。