korbyさん

ボカロ曲制作ユニット畑中洋光(哭きのリー&korby)です。

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DANCE DANCE

今宵はお誂え向き 満月が白く誘(いざな)う
容赦ならもうしないわ はめをはずしましょ

大げさにため息つく
肩肘はって物憂げな
ウブな少女装うの そうよおてのもの

首筋香る 赤い狼 のどを鳴らして待ってるわ

棘を落とした 可憐な野バラ 見せかけの罠気付くかしら
気恥ずかしげに 微笑んでも
ほら この指先は手慣れている

※yes all right
Dance dance dance tonight
Dance dance dance all night
Dance dance dance midnight
you get a dance dance keep on dance
yes all right
Dance dance dance tonight
Dance dance dance all night
Dance dance dance midnight
you get a dance dance keep on dance

Keep on dance

胸元は光るジュエリー 
片耳少し色付けて
深淵の向こう覗きに 足音を消して

甘く艶めく 赤い狼 このたてがみ触れてみてよ

伏し目の似合う 揺れる目尻で 躊躇うふりで着いていくわ
強引な声で 引き寄せてね
ほら その唇をときめかせて

※繰り返し

呼吸乱して 腰を絡め
感じて確かめる
砕けてとろけても
心だけは飼い馴らされないわ

yes all right
Dance dance dance tonight
Dance dance dance all night
yes all right
Dance dance dance tonight
Dance dance dance all night
Dance dance dance midnight
you get a dance dance keep on dance
×2
yes
Dance dance dance tonight
Dance dance dance all night
Dance dance dance midnight
you get a dance dance keep on dance
×2
Keep on dance

Keep on dance

Round sky

満点の星空の下 点と点を繋いでく
時を越えて繋がっていく 星座を見る
小さく跳ねた子ウサギ 双子の子とオリオン
狩りをする猟犬達を見送って

切り取った星空を ひたすら見送って
物語を紡いでた

回った星たちを 数えて時間も忘れるくらい
ずっと夢を見ては 星の数を数えた
巡った星たちは なぜだか鮮やかに煌めいて
ちょっと背伸びをして 変わり続ける空を見上げている


曇天の日々を過ごす 視界は曇っていた
時がたっていくほどに ありふれてく
もう飛べない鳩の羽 流れる川にペルセウス
金の毛の牡羊達はもういない

切り取った星空は どこかにしまったまま
物語はもう止まってる

回った星たちを 数える時間も忘れるくらい
ずっと走り続けて 星の数を忘れた
巡った星たちは なぜだか薄く消えていくから
ちょっとため息して 変わり続ける空を遠ざけた


覗きこんだ望遠鏡の中
星は前よりくすんで見えていて
あの頃見えてたはずの星空は
どこに消えてしまったの

ずっと星たちは 同じ場所で僕らを照らしてる
はずなのに 変わってないのに


回った星たちを 見上げて僕は立ち止まってた
ずっと背伸びをして 上を向いていたんだ
巡った足跡を 覗いて見えてきた星空で
そっと星をなぞり あの頃に戻ってみる
回った星たちを 見上げた僕は何を思おう
ちょっと近づいても 変わることない空を見上げよう

ウェルカムカナルストリート(1/2)

一、ルカ

「カサブランカよ、『白い家』。見たままでしょう?」
ママがひとりで切り盛りしていた頃からずっとそう呼ばれているの。
あの頃はまだ小さな店で、テラス席もなかったから、席数は今の半分にもならなかった。でも、昔も今も、お腹をすかせた水夫さんたちの店であることに変わりはない。出すのはさほど珍しくもない家庭料理だけど、なにしろ、盛りは大きく作りたて!それがうちの法律だ。
「おすすめ?そうね、テキーラとライムでどう?」
カウンター席のお客さんに答えながら、手では並んだグラスにドリンクを準備しつつ、横目で店内を見渡した。満席のホールから消えていたメイコが、声を上げながら奥から小走りに出てくるところだ。
「オリバー!ミラーズに買い物行って来て、急いでるって言ってね。はい、これ持って」
……なにか切らしたのね。小さく買い足すと高くつくのよね。
お金のことをしているのは私だからつい気になってしまうけど、メイコの大雑把は大胆さの裏返し、そのくらいでないと女が店を回すには不都合もあるんだって、私だってわからないわけじゃない。
「……ええ?ダブルだけど、だってそのくらい飲むでしょう? そうよあれが姉さん、どこかで聞いていらしたの? 今日ね、いい牛テールが入ってるから、迷ってるならそれにするといいわ。ちょっと失礼、呼ばれてる」

 今夜も店は大忙しで、グラスを上げたり下げたり、注文を厨房に送ったり、まったく息つく暇もない。自分で言うのもおかしいけど、美人姉妹の店として少しは有名なの。ご機嫌取りのプレゼントが競い合って山と積まれたこともあったわ。うちはそういう店じゃないのと怒ったメイコが「チップ絶対禁止」をうちの法律に加えてからは、少しは平和になったけど。
「……はい、ええ、肉ならワニのフライもあるけど、内陸の人はお嫌いでしょう。魚のスープ、フィジョアーダのバナナ付き、ピクルス、ホワイトソースのチキンパイとか。デザートならライスプディングもあるわよ」
料理はもともとすべて母が、次には姉が作っていたけれど今はこの様子。さすがに手が回らなくなって厨房も人を雇っている。地元の大男で、うちじゃソングマンって呼んでるのだけど、それは彼が大変な無口で、鼻歌の他には一週間も喋らないほどだからだ。人柄は優しくて力があるから、大きい肉も扱えるようになったし、お客さんがもめた時にも頼りになる。なくてはならない仲間だ。さっき買い物に出された手伝いのオリバーはまだほんの少年だけれど、ここではソングマンより先輩で、たいていの仕事は心得ている。……本来は、働くような年齢ではないのだけれど、家庭に事情がある子どもはどこにだっているものだ。私たちはあの子が可愛いくて、してあげられることは限られているから……なるべく、子供扱いしないのだ。
「……はーい今!」


 注文の行き違いで浮いたソルティドッグを、手持ち無沙汰そうな別のお客さんに付けて戻るとふいにぽっかり時間が空いた。向こうでは、数年来の常連にハグを求められて応えたメイコがその太い腕を思い切りつねって野太い悲鳴を上げさせている。何があったかは想像するまでもない。
「……あんたね、友情に侮辱で報いようっての?」
喧騒で言葉は聞こえないが、きっとそのようなことを言っているのだろう。ああなった時、周りはたいていメイコの味方だから心配はない。

 運河の街で降りる船乗りたちは、地球の裏側ほども遠いところから、世界の全てと言ってもいいような様々な積荷といっしょにやってくる。ああして、毎日のように再会を祝うけれど、本当は、そのひとつひとつが奇跡みたいな偶然の賜物なのだ。
私とメイコは似ていない姉妹だ。
白い肌で青い目の私と、ナッツ色の肌をいつも日に焼いている黒い目のメイコと。運河通りのおきまりの通り、別々の船乗りの種なのだ。
パパたちは、わたしたちがまだほんの少女でママも元気だった頃は、いつやらの船に乗って突然現れては、抱っこしてくれたり、ガラスのアクセサリーやお人形をたくさん買ってくれたりしたものだけど、いつしかその足は途絶えて、もう十年も見かけていない。
……ふたりは、ママが死んだことも知らないのではないかしら。それともとっくに船乗り仲間から聞き知っていて、それで、来なくなってしまったのかしら。
メイコも私ももう子供ではないし、どんな約束があるわけでもない。それでも、ふとしたときに考えてしまう。

 ……あの入り口を、同じ船から降りた水夫たちにまぎれて入ってくる。
メイコはうっかりしているから、忙しさのあまり顔も見ずに適当に席を割り振るかもしれない。だからグラスから顔を上げて私が気づくんだわ。特に、黒髪の穏やかな目をしたメイコのパパは控えめだから、気がつかなかったら誰かも明かさず食事だけして帰ってしまうかもしれない。だからとても注意が必要よ。そして、左腕に大きな魚のタトゥーがあったら、それが私のパパ。ママが右腕に同じものを入れていたから、一目見たら絶対に間違わないんだけど!
私は、黙ってパパを奥の一番いい席に案内して、注文を受ける前に、お決まりの料理を出すでしょう。まずはロックでラム酒。オクラのスープとオイスター、ケイジャンチキンに魚の煮込み。アイスクリームにコーヒーまで。そして忙しい時間が過ぎたら、少しだけ、積もる話をするの。
料理の味は変わらないねって言ってくれるかしら、私たちが、大人になって見違えたっていうかしら。翌日は、ママのお墓に行く約束をして、それで…………、
なんてね。考えたって、詮無いことなのにね。

さあ!こんなことしている場合じゃないわ。
「テキーラ三つね、お持ちになってどうぞ!」


(続)

ウェルカムカナルストリート(2/2)

二、メイコ

怪しいなって思ってたの。三番の客、やっぱり潰れたわ。前後不覚の意識不明、今にも、椅子から滑り落ちそう。
ルカは、我慢ならない相手をしきれないと判断した客には、涼しい顔して強い酒をどんどん進める。今夜みたいに、たとえば、ロングアイランド・アイスティー。ウォッカテキーラジンにラムのちゃんぽんとかね、なかなか手強い子でしょ?
そろそろ閉店準備に入りたい時間だ、すべきことは決まってる。私は今夜は時間通りに店を閉めたいのだ。
「オリバーくーん、お皿はもういいから、またお使い行ってくれない? ローラのところ、一名様ご案内しますから迎えに来てって」
「はい行きます! 今夜はいっぱいだって言われたら?」
「待つから、部屋があく頃に来てって。それでもダメなら仕方ないわ、あきらめましょう」
「はい」
手付かずで客席から戻ってきたフライの一本をその口にくわえさせ、行ってらっしゃいと送り出す。うん、熱々の時には劣るけど、我ながら今日もいい味だ。
『ローラのところ』は、いわゆる娼館だ。うちから申し送ったお客様は、そりゃもう丁寧に女の子の部屋に運び込まれ、お靴を脱がしてベルトを解き、ボタンを開けてもらってから、そのまま朝までおやすみなさい。朝にはきっちり一晩分の料金をありがとうございます!って寸法。女の子は楽ができるし、お客さんだって路肩で身ぐるみ剥がされるよりはずっとマシでしょう?いいじゃない!酔いつぶれて寝てる間にベッドに運んでもらえるなんて最高のはずよ、これはむしろサービスだわ!
 クローズ準備が大方終わった頃に、ローラのところから二人来て、酔いつぶれた客を引きずって行った。よしよし上出来です。これでちょうど、あいつの戻る時間頃に行ける。約束はないけど、サプラーイズ? だってこまめにかまわないと拗ねて不機嫌になるのよね。まあそこが可愛いんだけど。
今夜も無事の閉店後、上機嫌でソングマンとオリバーを送り出し、着替え、口紅を引き直してから出かけようとすると、ルカが私を呼び止めた。なによあんたそんな柱の陰から、景気悪い顔ね、幽霊じゃあるまいし。
「姉さん私、…………あの男、よくないと思うわ」
それを聞いた一瞬、すうっと体が冷えた。
それから、熱い怒りが湧き上がってきて、気がつけば、私はルカに手酷く言い返していたのだ。
……そりゃああいつは完璧とは程遠い男よ。我儘で、機嫌が悪けりゃ荒れるし……だけど誰を好きになろうが私の勝手でしょ?いいところだってあるのよ、だいたいそれがあんたにどんな関係があるの。賢いふりでお高くとまったってあんたは家に居っきり、本心では私が妬ましいんでしょう!!
そこからはもう、売り言葉に買い言葉。私は部屋に戻り、全財産を小さな鞄に叩き込むと、振り向きもせずに家を出た。後ろからルカが何か叫んだけど知らない。わたしはもう帰らない気で、恋人の家に飛び込んだわけだけど…………。
……まあ、何よ、……だから、この深夜に勢いドアを開いたら、ところがそれが先方はお休みの最中だったって訳だわ。どこかの女とふたりきりでね!
 つまり、それが昨夜のこと。
私は半ば放心状態で、日が傾き始めて紫色を帯びた運河の支流を半目で眺めてた。悲しいし疲れたしもうなんだかよくわからない。……毎日眺めるあの大きい船たち、思えば一度も乗ったことがないなんて今さら気がつく。荷物に紛れて乗り込んだら、遠い国の誰も知らない町に付いてやり直せるんじゃないかしら、誰か顔見知りをつかまえて頼んだら、なんとかなるんじゃないかしら。わたしは『あの、カサブランカのメイコ』なのだから…………ううん、だめかな。きっと失敗する。……見る目ないものね、わたし。

 どれくらいそうしていたか……少し寝てたのかも。遠くから私の名前を呼ぶ声が聞こえた。思わず耳を覆う。やめてよ今は誰にも会いたくないの。
「……ちゃーん、めーーちゃーん……でしょ?おーい」
「…………」
あきらめて重い頭を上げても何もない。首を巡らせて探すと、幼馴染のカイトが、どうしたわけか、ぼろボートの底に仰向けになって川面をゆっくり流れていくところだった。
「………………あんた、なにやってんの?」
カイトとは、歳が近く顔が似ていて名前も似てる。父親がいっしょだったりして!などと無責任に大人たちは言い、私たちも一緒に意味もわからずげらげら笑っていたくらいだ。ちなみにカイトのママだけがそのことは真顔で否定していた。
「傷心をいやしてる?」
カイトはとてもそうは思えないニコニコ顔でこちらへ大声で言い、まるで痛むみたいに胸をさすってみせる。
同じ通りのカイトは柔和極まる性格で、子供の頃からの付き合いの私でさえ声を荒げる姿をみたことがない。優しくて気が利くので、荒っぽい船乗りに嫌気がさした女の子たちにめちゃくちゃにもてるけれど、年中相手をとっかえひっかえなところを見れば、それほど与し易い男でもないってわかりそうなものよねぇ。
「僕さ、ふられちゃったー」
相変わらず、カイトは全然真剣味がない。
「……それはこっちのセリフ」
「……ええ、そうなの?かわいそう!」
はぁー!ひざの上でたるんだスカートに顔を埋めて、深いため息を吐いた。いつも通りのゆるさのカイトと話していたら、気が抜けてきたのだ。
「メイコー」
目線だけを上げるとカイトが、寝転んだままボートのロープの端をぐるぐる回して見せている。私は土手を立って草まみれの斜面を水辺まで降りて行き、カイトが投げたロープの端をつかむとそのあたりの杭に結びつけた。カイトはボートを岸に寄せると、腿まで水に濡らして上がって来、私の背中を押して土手に上がった。蛇も出るしワニも出るし、長居したい場所じゃない。
カイトは私を見下ろすと、当たり前そうに言った。
「お腹すいたよ。送ってく」
「………………ああ、もう!ああもう!もうーーー!!」
頭が沸いてきた私は、そんなカイトの腕にごんごん頭を打ち付けてうなった。
「……わたしを!誰だと思ってるのよ!カサブランカのメイコよ!みんな!日付変更線の向こうから!わざわざ私に会いにやってくるのよ!!」
聞いているのかいないのか……多分聞いてないけど、カイトが私に胸を貸したままでいるのをいいことに、わたしは全力で泣き言をぶちまけた。
「それを!……それを、なんで……もう、ああもう、バカァーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「おおよしよし、かわいそうにねぇ」
肺の中の空気を全部吐き出して叫ぶと、なんだかちょっと気が済んだ。鼻をすすりながら顔を上げる頃には、カイトは限りない親しみを込めてそつなくハグしてくれていた。……あんたねえ、ほんとそういうとこよ……。
いろいろ諦めた私は、カイトの肩で適当に涙を拭いて離れた。全財産が入ったままのハンドバッグからハンカチを出して鼻をかみ、癇癪を起こしてあいつに投げつけて来たりしなくて良かったと、自分をすこし褒める。
この時間は、寝ぐらに帰る海鳥がうるさい。
それは人も同じで、運河通りの店々では夜に向けて開店準備に大わらわだろう。
「はぁ……。……あんたは、いいの?」
「うん?うん。もういいよ、僕もよくなかったし」
「ええ……、なにその軽さ。あたし、あんたが少し心配だわ」
カイトは黙って肩をすくめてから、私の背中に置いた手で前へ促すから、心の準備もないまま、なんだか一緒に歩き出してしまう。

 川べりから路地を上がり、最も栄えた運河通りを南へ。
賑やかに店がつらなり、砂埃を立てて人々と車とが行き来する、船乗りたちが、この街に降りていちばんに目にするところ。そのまま下れば、少しずつ道は細く静かになり、街路樹の下に置かれたベンチが存在感を増してくるちょうどその頃に、見えて来る区画の角の白塗りの壁。ママが植えたバナナの葉が、風を拾ってザラザラ音を立てていた。テラス席の椅子はまだテーブルの上に上げられたままで、あけっぱなしの厨房からは青紫に暮れ始めた通りへ、オレンジ色の明かりが漏れている。
……わたしの店。
ママと、ルカと、わたしのカサブランカ。
私が足を止めると、カイトも黙って足を止めた。

 テラス席のあるこの角はかつて、うちとは別の雑貨店だった。ママにもらったコインではじっこの溶けたキャンディを買うのが楽しみだった。ひとつ奥に入った白い小さな私たちの家のその二階で、ママと私とルカは寝起きし、その一階がうちの小さな食堂。なつかしいこどもの日々、まるで昨日のことのよう。
夜、ルカとベッドに入る時間にはいつも、ママの作るトマトの煮込みと揚げ油の匂いとお客さんたちのにぎやかな声がしていて、翌朝には、それらのおいしい残りものをつめたいご飯にのせて三人で食べたものだった。
そうそう、時々は、近所のカイトの家にもおすそわけに持って行った。カイトはなんでも喜んで食べたけど、開店中のお店のことはどうしてか怖がっていてそれは今でも同じ。営業時間には寄り付きやしない。でも、差し入れに料理を持っていくと喜んで食べるのだ。
「……」
横に立ったままのカイトを見上げると、カイトは少しこちらに首を傾けて言う。
「バナナのフライと、魚の煮込みでいいよ」
「…………」
「久しぶりに食べたいなぁ」
「……わかったわよ。わかったわよ!帰ればいいんでしょう。でもこれはただ……あんたが、道を送ったくらいでわがままを言うから、そのためなんだから!」
「うん」
ひとつ大きく深呼吸をして五歩、進んだところで振り返るとカイトはやっぱりまだいた。心配してくれているのはわかっているがどうにも照れくさく、さっさと帰りなさいと追い払うように手を振った。カイトがちょっと笑ったのを横目に見て、お礼にはデザートもつけようと思ったきり、私はもう振り返らなかった。鍋いっぱいのお湯が肉をゆでている匂いがしたからだ。
私が匂いに惹かれて明るい厨房に入ると、洗う前のオレガノとミントの山に手を突っ込んだルカがこちらを見て固まった。奥の裏口からは鍋を気にした様子でソングマンが入ってきたが、向き合う私たちの様子を見るとそのまま後ろ歩きで戻って行った。
私は言った。
「振られたわ」
ルカは、ハーブの山にうつむいて、こもった聞き取りにくい声で応える。……だったら、
「……だったら早く、手を洗ってきてよ。困るのよ!ライムもなかったし、鍵はへんなところにかけてあるし、この間変えたモツ煮のレシピは字が読めないわ!」
「……そうする」
正直へとへとだったけど、とにかく着替えて手を洗いに通り過ぎようとしたら、裏手の野菜箱に座って待っていたソングマンが後ろ後ろと指をさした。振り向くと、私の妹が顔を覆ってめそめそ泣いている。ルカは、姉と違ってミステリアスとか言われるその実、まだ子供みたいなところがあるのだ。
私が戻ってその背を軽く叩くと、十の子供みたいに抱きついてきて泣く。それをハグして甘やかしてるうちに、なんだか私まで泣けてきた。
「……ごめんね」
「姉さん」
「ごめん」
「わたしこそ」

 ねえ、仲直りって馬鹿みたいよね。
それまでなにを悩んでいたか、もう全然思い出せないの。
私は泣きながら笑ってしまい、ルカを立たせて振り向いた。さっきから、鍋の火加減が気になっていたのだ。
「ソングマンー、鍋、もういいと思うわー」
言い終わるかどうかのうちに、サッとやってきたソングマンが準備し尽くされたかのような迷いない動きで具材や調味料をどんどん足していく。まあ裏口で暇だったものね、悪かったわよ。
「それで、モツ煮がなんだっけ?どれ?読めないの」
ソングマンが尻ポケットから出したレシピ帳を覗き込むと確かに書き直しのあとがある。
「……ああ、クローブとピーナッツクリームを入れてみたけどやっぱりやめたの。だからこれはなんでもない、いつも通りでやって」
ソングマンはうなづく。
「オリバーは来た?今日は船数多かったから、椅子多めに出しておいてって……あ、ダメか置き場二階よね、手伝ってあげて。ルカは何かあったっけ」
「……いいえ、仕入れは済ませた。私ではいつも通りに買えないところもあったけど、とりあえずは大丈夫よ。あとは、このまま準備をするだけ」
「そう。じゃあ、今日も始められそうね」
「…………わたし、私、カサブランカがなくなるのかと思ったわ」
「そして今度こそ、私の帰る所もなくなるってわけね!」
「姉さん!」
肩をすくめて、着替えに二階へ上がろうとすると、たぶんオリバーのおはようの声が聞こえ、それにかさなるように、追いかけてきたルカが言った。
「もう勝手にいなくならないで。……頼りにしてるの!」
「……はいはいおまかせくださいな」
お姉ちゃん反省いたしましたもの。大好きなみなさんとみなさんの愛するカサブランカのために、本日もはりきって働かせていただきますわ!
……だけどちょっとその前に。
私は階段からみんなのいる一階をふりかえり、肩をおとして懇願したわけよ。

「お願いだから、一時間だけ寝かせてほしいなぁ!」

                              


(おわり)

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