兎ルルさん

イチオシ作品

タイトル未定 第一話 「 イリヤ死す」

恐らくの話、今、仮に死ねと言われれば俺は潔く死ねるだろう。 そう思って夜遅く、海の前に立っていた。 俺の名前はイリヤ。二十三歳にして、バイト生活を営んでいる。しがない自殺志望者である。 波打つ音でさえ、心を鎮めてはくれない。ドクドクと脈打つ鼓動がその事実を証明していた。 ただ、本音を言えば死ねないのである。理由は単純だ。怖いからだ。 勇気がない。どれだけの決意で身を固めようとしても、勇気は俺を見放していた。 一人暮らしの家からここまでの距離はざっと五キロメートルほどだ。 その苦労が水の泡になるのかと、なんだか死への価値観が薄まっていくのを感じていた。 疲れた身体を癒すべく夜空の星を眺めた。 しきりに一番星を探してみたが、今はもう深夜の一時を過ぎている。 もはや徒労に徒労を重ねている。 そう思った矢先であった。どこからか声が聞こえた気がした。 その瞬間、テンパったせいか平行感覚を失った。 そして、よろけた身体が海に投げ出された。悲鳴にならない小さな声は誰にも届かない。 田舎の夜は閑散としている。誰も助けはこない。 だから、必死になった。 先程の死にたいという欲求は泡となって消えていた。濡れて重たくなった服を振り解くように全身をバタつかせた。 しかし、苦労虚しく徐々に身体が沈んでいく。 息を止めた。死にたくない。死にたくない。そう心で叫びながら必死にこらえた。 しかし、引きずりこまれていく力に抵抗することすらままならない。 ボコッという音とともに、口や鼻に入ってくる水に苦しみながらこれまでのことを思い出していた。 俺は至って平凡な家族のもとに生まれた。 その時、母親と父親の一人息子として生きていくことを、決定づけられたのだ。 何らそのことに後悔はない。充二分に愛情はそそがれていた。 ただ、生きる意味を見失うことになったのは、自分のせいである。 数少ない友達はひとまず置いておこう。 自我の芽生えとともに何もかもが馬鹿らしくなったあの日、俺は死を決意した。 そこから現在に至るまでの過程も捨ておこう。 兎にも角にもあの日である。 高校一年生になった俺は、思春期の真っ只中にいるかの如く揺れていた。元々、他人にあまり興味がなかった。 妄想を膨らませて未来を見通してきたはずだったにも関わらず、高い壁に周囲が固められていた。 それに気づいた時にはもう遅い。空想ばかりに身を委ねていたものに壁を登る力はない。 ただ立ち尽くすだけだ。 要するに、人との壁につまづいたのだ。 それまでは、幼さ故に、行きずりに人と関わりあってきた。 興味を示さずとも、周りの好奇心がそれを許さなかった。 だから、少ないながらも友達ができた。それは不思議と嬉しい気持ちにさせた。 しかし、誰もがバラバラの進路に進んでいくなかで、奇しくも一人になってしまった。 孤独の王様だ。 なぜそのような表現に拘ったかと言えば、恐らく俺ほど孤独な人間はいないからである。 他人に興味がない人間というのは皮肉なものだ。 何故なら、人に興味がなくても人にどう見られているかについては関心に値するからだ。 孤独の王様は、しきりと周りにどう思われているか知りたがった。 しかし、わからない。関わりのない相手にそれを知る方法などない。 漠然とした不安を抱えながら、虚しさを頭の中でループさせた。 その度に痛い心の内を、密かに感じ取っていた。 そして、齢十六にして死を意識し始めた。 これは、全て高校生活が始まったその日の出来事である。 俺はただへたった笑みを浮かべるしかなかった。 記憶から思考へと舞い戻ると、意識は既に飛びかけていた。徐々に苦しみが苦しみという言葉から離れていくのを感じ取る。そして、父と母の姿を浮かべて、すまないなと思った。先に逝くのは申し訳ない。三途の川で石を積み上げることになるのかと、生きることを諦めた時に、俺は死んだ…

タイトルはネタバレになるから完成してから。探り探りなので、大きく改編する可能性あり。設定は書きながらちょっとずつ決めていきます。杜撰なやり方だけど、性に合ってる…気がする。ちなみにラノベ小説です。小説自体初めて書くので、どうなることやらって感じです。感想ください(切実)

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投稿日時 : 2019/05/01 09:58

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