最近の投稿作品 (13)
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VOCALOID CODE[FILE10]
「ああ、アトバシュね!」
オカルト好きのリンもピンと来たらしい。
「ちょっと待ってよ。アトバシュっていったい何のことかしら?」
メイコが一人取り残されて慌てている。
「アトバシュって言うのは、『ダ・ヴィンチ・コード』にも登場した暗号で、教会による弾圧が厳しかった時代に、教会の教えに反する書物を守るために使われてきたんです。その暗号はヘブライ文字に対応してるから、母音のみの音を除いて母音の表記が存在しなかったし、Chに当たる文字は一文字だった。『L Ch T N N』の解読にちょうどいい暗号ってわけですよ」
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【ロミシン替え歌】サタンとヘラクレス【ナルニア白い魔女風味】
私を異界の悲劇のプリンセスにしないで
ここから連れ出して…… そんな気分よ
妹におやすみなさい せいぜいいい夢を見なさい
「勝利よ あなたのじゃないけど」
むせかえる魅惑のカラメル 背徳の麻薬を絡める
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VOCALOID CODE[FILE9]
「とりあえず、この暗号を解読するしか道はないわけだ……」
レンが再び暗号の書かれた紙に向き直る。――「L Ch T N N」
「どう? 何かわかりそう?」
リンがレンの表情を伺う。
「一つだけわかることがある」
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VOCALOID CODE [FILE8]
「……なるほどね」
茶髪の女性、アパート大家の咲音メイコは頷いた。
「どうしよう、たねぴこ、ウイルスで消去されちゃったんじゃ……」
「そう決めつけるにはまだ早いよ」
レンはリンの方を撫でた。目の前で友達が消えた恐怖と悲しみから、がくがくと震えていた。
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VOCALOID CODE [FILE7]
「なんだ!?」
レンは声を上げたつもりだったが、自分の声の反響が聞こえないことに気づく。
コンピュータ・ウイルスがこの部屋のプログラムに侵入したらしい。
「おい、リン、たねぴこ、大丈夫か!?」
音声と映像をストップされてしまったのだろうか、呼びかけるがリンもピコも答えない。
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VOCALOID CODE [FILE6]
言い出したからには引けない。レンは画面を起動しマネジャーについての情報を集める。
「普通人間の芸能人につくマネジャーが一人なのに対し、ミク先輩みたいな歌手ソフトにつくマネジャーは複数名。プロデューサの作った曲を歌手ソフトに届ける仲介役をしている――なるほどなぁ」
「マネジャー」という職のネット上での存在意義についてすらはっきりと知らなかったレンは、まずそこから調べてうんうんとうなずく。
「今回殺されたマネジャー、LEONさんが仲介していたのはどのプロデューサの曲なんだ?」
「あ、それなら号外に書いてあったわよー」
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VOCALOID CODE [FILE5]
「どう? もしかして、ミク先輩を誘拐した犯人が残した声明文とかじゃない?」
リンが自らの手柄を誇示するように胸を張った。
しかし、レンは即座にそれを否定する。
「いや、それはないよ」
「なんでそんなことが言えるのよ!」
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VOCALOID CODE [FILE4]
「鍵かけ忘れか? 芸能人にしては随分無用心だな……」
レンは家の中に足を踏み入れた。誰もいない他人の家というのは、なまじ生活感が伝わってくる分不気味だ。隣家の生活音に対して家の中が全くの無音という状態が、まるで家の中だけが異次元であるような錯覚さえ起こさせる。
「あら? 何かメモがあるみたいよ」
リンが勝手に玄関から奥に踏み込み、机の上に置かれた紙を手に取る。玄関から先へあがることはためらわれたが、仕方なくレンとピコも後に続く。
「まさか遺書とか?」
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VOCALOID CODE [FILE3]
「っと、ここだよな」
ミクが在学していた当時の担任、始音カイトに話を聞いたところ、結構簡単にミクの住所を聞き出せた。個人情報の管理が甘いともいえるが、中学一二年生が悪用することはないと思われたのだろう。
「確かに標札は初音になってますね」
ピコが標札の文字を指でなぞる。厚紙にマジックで書かれた安っぽいものだ。元担任の話では、追っかけやパパラッチなどが来て家族に迷惑がかかるかもしれないからという理由で、ミクは中学卒業と同時に仕送りと芸能活動の収益で一人暮らしを始めたらしい。いくら芸能人とはいえ高校生の一人暮らしなら安いアパートが精いっぱいといったところなのか。
「でも、誰もいないみたいね」
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VOCALOID CODE [FILE2]
「……この初音ミクって、ミク先輩のことか……?」
初音ミクはゲキド中学校の卒業生だ。卒業とほぼ同時にデビューし、今は高校に通いながら歌手として活動している。学年はリンとレンの二つ上なので、ピコは彼女の在学中のことを知らない。リンとレンにしろ、特別ミクと親しかったわけではなく、ただ当時から声楽部のホープと称されていた彼女を一方的に知っていただけである。
「まだ詳しい情報は入ってないみたいだけど、こんなに堂々と『怪死』って書かれるような死に方よ? ミステリーの匂いがぷんぷんするじゃない!」
「まさか、現場に行ってみるとか言いだすんじゃないだろうな」
腕をパタパタさせながらまくし立てるリンを制し、レンは読みかけの推理小説にしおりをはさんだ。
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VOCALOID CODE [FILE1]
インターネットという、情報の海の片隅にたたずむ仮想空間上の街、ゲキド街。その町のさらに片隅にあるゲキド中学校の、さらに片隅のミステリー研究部室。そこで副部長の鏡音レンは推理小説を熟読していた。
最終下校時刻が迫り、帰宅部はもちろん文化部員もほぼ全員が下校している。熱心な一握りの運動部の掛け声が校庭からかすかに響いてくるのみで、部室は静寂に包まれている。レンはこの時間帯に一人で本を読むのが好きだ。中学二年生にしては枯れた趣味だと自分でも思うが、好きなものは仕方ない。
天井からぶら下がったUFOの模型が斜陽を反射し、クー・クラックス・クランの覆面が今にも中の人間無しに動きだしそうな風で壁際に放置されているなど、事件・オカルト・怪奇・都市伝説などといった謎を総合的に取り扱うミステリー研究部ならではの気を散らす要素は多数あったが、それらとも二年間弱もの付き合い。レンにとってはすでに旧友のような存在になっている。
誰かが忘れ物でもしたのか、ぱたぱたと廊下を走る足音。レンは聞くとはなしにその足音を聞いていた。――全く、騒がしいな。
と、足音はレンのいる部室の前で立ち止まり、勢いよく部室のドアを開いた。
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【欲音ルコ】この声は君にとどかない? 後編【重音テト・重音テッド】
「……あれ?」
死んだかと思ったが、痛くも痒くもなかったので、俺は思わずうずくまった姿勢をもとに戻そうとした。
だが、何かが頭に当たってできなかった。
俺の頭上数センチのところに天井が迫っているようだ。重さから考えると、多分土砂がさらにその上に積もっているんだろう。
――おいおい、まさか生き埋めってやつか?
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【欲音ルコ】この声は君にとどかない? 前編【重音テト・重音テッド】
重音テト、三十一歳。
俺と同じ街に住む彼女は、三十路とはとても思えない若々しい外見と、明るく前向きな性格を持つ――俺の憧れの人だ。
ただ、彼女にはひとつの大問題があった。
「ルコ!」
キュートなネコボイスで、俺は呼びかけられた。