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【がくルカ】memory【16】

全ては、唐突に




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「はい、できた」


宣言通り三日で台本を完成させたリンさんは、笑顔で台本を手渡した。
ちなみに、ここは放課後の講堂です。


「リン…お前、これを三日で……しかも一人で……?」
「先生、リンの執筆速度をなめたら駄目だよ。
 凄いときは、一日で書き上げることもあるから…」
「人間かよ…」
「それレンにも昔言われましたー」
「痛っ。なんで叩いてくるんだよ…」


しかもきちんと睡眠をとって、空いた時間に書いたらしい。
一応台本をザザッと見ていくと、中身はしっかりしていた。すごい。
ちなみに、弟のレン君も「人間かよ…」発言をしたことが何回もあるらしい。


「じゃあ、一応演技力を測らせてもらえますか?」
「演技力、ですか?」
「はい。駄目だったら短期間で上げさせていただきますが」


初音先生は、演劇の指導はかなり上手い。
教師としてはまだ新人だけど、演劇が関わるとかなり凄い。
どれくらい凄いかというと、演劇のことになるといつものドジっ娘体質が無くなるぐらい。
うん。もはや別人である。


「ちなみに、巡音さんや他の方はもう終わりました。
 あとは神威先生だけなんですが」
「……具体的には、何をすれば?」
「そうですね…いつもと違うキャラを演じてみてください」
「いつもと違うキャラ?」
「はい。測るだけですので、少しだけお願いできますか」
「……わかりました」


神威先生のキャラ、というか印象。
普段の彼は冷静で真面目で、どこにでもいそうな感じだ。
そんな彼の、いつもと違うキャラ。
全然想像できない。


「ただ、いきなり違うキャラでとか言われても、俺には無理なんですが」
「じゃあ…こうしましょう。巡音さんを戸惑わせてください」
「うん、意味不明なんですが?主に私が」
「大丈夫だよ巡音さん。許可とるの大変だったんだから!」
「いや、そういうことじゃないですよ。
 ほら、神威先生も困って…」


後ろを振り向くと、神威先生は眼鏡を外していた(いつの間に)。
いつもそうだけど、眼鏡を外してもやっぱり彼はかっこいいです。
と思っていたら。


「どうされました?宴はまだ、終わってはいませんよ」


……え?あれ?


「主役が楽しまないでどうするのです?まったく……」


彼は悪戯な笑みを浮かべる。
白衣の裾をなびかせて、私に右手を差し伸べた。


「ならば、お嬢様。僕と一緒に来ませんか」


よく物語とかでありそうなセリフ。
言葉は、彼によって紡がれた。
その時の彼の声は、落ち着いていて温かみのある、いつものものではなくて。
普段なら聞くことはない、私を誘う甘い声。

――えぇ、全く理解できませんよ。何故彼がいきなりこんなこと言うのか。
だって眼鏡を外した彼を見るのは新鮮だし。
彼の甘い声を聞くのは初めてだし。
そして何より、微笑む彼の瞳には…微かに切なさが揺らめいていた。

私の知らない『神威先生』に、ただ戸惑って立ち尽くす私。
そんな私を見て、彼は初音先生に向き直った。


「――つまり、こういうことですか?」


眼鏡をかけなおして、彼が言う。
その声には先ほどの甘さはなく、普段通りの声だった。
そして彼の言葉で、ようやく理解する。
……要するに、今までのは『演技』だったのだ。


「はい、こういうことです。
 それにしても、よくあんなセリフが出ましたね」
「あぁ、先ほどリンからもらった脚本にあったセリフを引用しました」


あー、いろんな意味で納得した。
さっきのは演技だったけど、こっちは本気でドキドキした。


「じゃあ演劇はこのへんで…
 次はライブについていいですか?」
「ライブって、学園祭初日にあるライブのことですよね?」
「そうです。『Singer』のうちの数人はライブをすることになってます。
 八人がライブに出ることになるんですが…」
「あー、今は二学年に五人、教師に三人しかいないから…」
「そうです。今この学校にいる『Singer』の人は、全員出ることになります…」


実は私は、既にリンさんからこの話を聞いている。
別にギターとかが弾けなくてもいいらしい。


「で、今回は全員初めて…かな?」


初音先生の呟きに、神威先生はピクリと肩を揺らした。
なんだろう?


「神威先生、楽器できます?」
「ギターを少し…」
「じゃあ試しに弾いてもらっていいですか?」
「いいですけど…左利き用ってあります?」


そうだった、よく考えれば神威先生は左利きだった。
だから左利き用のギターが必要なのだ。


「うーん…」
「あれ?皆さん何してるんですか?」
「お、始音。丁度よかった、ギターあるか?」


偶然通りかかった始音先生に、神威先生が呼びかける。
始音先生は「了解」と言ってすぐに左利き用のギターを持ってきた。
時間にして、わずか一分。速っ。


「サンキュ。で、どの曲を…?」
「あ、この曲で…」
「そう。ちょっと楽譜見せて。ボーカルと、ギターの」


神威先生はリンさんから楽譜を受け取ると、ぱらぱらと軽く目を通した。
なんか、適当に見てるって感じだ。
そして楽譜をリンさんに返した。


「じゃ一回、歌とギターやってみるよ」
「え?でもあんな適当な見方じゃ…」
「大丈夫。――全部覚えたから」


そのまま、神威先生は自分の鞄を探り始めた。
どうやら、ピックを探しているらしい。
あ、あったみたい。


「皆、心配そうだね?」
「そりゃあそうですよ。あんな一瞬見ただけじゃあ…」
「大丈夫、あいつなら心配いらないよ。神威はね、昔から――」
「ん?何か言ったか?始音」
「ん?何でも」
「…そうか。じゃあ、始めるぞ」


いつのまにやら、準備は完了したらしい。
試しに歌うだけなので、マイクやアンプは必要ない。
神威先生は深呼吸をすると、曲を弾き始めた。


「……っ!!」


言葉で表すとしたら、それはどう言えばいいんだろう。
放課後の講堂に、彼の声とギターの音だけが聞こえていた。


「… 一秒だけでも 君の傍で…… 」


私は、彼がギターを弾くところは初めて見た。
そして――…、彼の歌も、初めて聴いた。


「 愛してる その一言さえ …」


……彼は、あの一瞬のうちに、楽譜を暗譜していた。


「……よし。終わったよ」


いつの間にか、演奏は終わっていた。
そして、小さな拍手がおこる。


「相変わらず、腕落ちてないみたいだね、神威」
「あぁ。七年ぶりに弾いたけど、これなら大丈夫だ」
「あ、あの、つまり…?」
「ん?俺と始音はここの卒業生。ライブやったこと、あるの」
『『えぇ!?』』
「楽しかったよな。いろいろ伝説作って…」
「まぁ、もうあんな事件にはあいたくないけどな」
「あぁ、アレか…。今回は起こらないことを願おうぜ」


とりあえず、いろいろあったらしい。
伝説って…何やったんだろう。


「まぁ、とりあえずそんな感じで…」
「そ、そうですね。ありがとうございました」


なんか、今日はいろんな意味で思い出に残ると思う。
あの甘い声は、また聞くことになるのだろうか…。


「じゃあ、今日はこれで解散ということで…」


初音先生がまとめようとした、その時。

講堂に、息を切らせて入ってきた人物がいた。


「ま、待ってください!!」
「た、大変です…」


メイコとグミちゃんはほとんど肩で息をしている状態だった。
二人の表情からは、事の深刻さが伺えた。


「い…今、他の先生方から聞いた話で…」
「と…とにかく、本当に大変なことになりました…」


「学園長が…失踪したって」



――そして、それは唐突に訪れた。

「唐突」


途中の曲は、SCL project様の「imperfect flower」という曲です。この曲大好きです。
さて、急展開です。
次回、ゆかりさんの過去が明らかに(予定)。

投稿日時 : 2012/09/30 00:15    投稿者 :ゆるりー

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