瓶底眼鏡さん

最近漠然とし過ぎた不安に襲われてます。まあそれは置いといてプロジェクトミライ楽しみですね。

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小説【とある科学者の陰謀】第四話~天国と地獄~その二

「……」

(……どうする……)

俺に許された選択は2つ。
一つは普通に一言残す事。俺の面子は保たれるが、どんなリスクがあるかわからない。最悪もう一度死ぬ。
一つは組織の宣伝をする事。俺の命は助かるが、無数のギャラリー、そしてハクさんに狂言を吐く変人と認識されかねない。最悪死ぬ。社会的に。

即ち、どっちに転んでも悪夢を見かねない絶対絶命の状況なのだ。

「シグ?大丈夫ー?」

ハヤクシロ。
雑音が一見こちらをおもんばかるような声色で問うたが、奴の目は確かにそう言っている。

(ええい、ままよ……っ!!)

こうなれば、やるしかない。愛しのハクさんから早くも可哀想な目で見られる事になるのは全身が引きちぎれそうなほど辛いが、それでも物理的に二度死ぬ気にはなれなかった。

「こうなりゃヤケだ……あー!お前ら、心して聞け!!俺の名は語音シグ!!びんぞ……Dr.Mの手により作り出された人造人間だ!!指令に従いピアプロで潜入工作を行っている!!そしてこの組織では現在組織名と団員を募集中だ!!入ってくれる奴は後で俺の所へ来てくれ!!以上だ!!よろしくな!!」

(終わった……)

静まり返る会場。自己紹介でスベった転入生ってこんな気分なんだろうな……怖くてハクさんの顔が見れない。
ああ、転校したい。

「……すごい……!」

……は?

「プライベートなのにも関わらず設定に忠実な発言をするなんて……」

「しかも、あんなに堂々と、違和感なく!常日頃から気を抜かず行動しているに違いない!!」

ちょっと待て。お前らおかしいぞその反応。ここは普通場が一気に白けて、それを司会が必死にごまかすシーンだろう。何故盛り上がる。
さらにギャラリー達のテンションは意味不明に上がってゆく。

「組織名か……何がいいかな……」

「よし決めた!オイラ、団員になる!!」

「もぐ……首を」

(オイオイ……どうなってんだ……)

真剣に組織名を考えている奴がいる。何故か血迷って入団表明し始める奴がいる。理解不能な発言をする奴がいる。
俺はもはや茫然とするしかなかった。

「はーいありがとー!これで歓迎会のイベントは全部終了ー!!だけど、料理も時間もまだたっぷり残ってるから、明日に響かない程度に楽しんでけー!!」

こうして、どこか腑に落ちないまま、歓迎会は大盛況の中終わりを迎えたのだった。

◆◆◆

「あの」

俺が座っている『悪の組織・名前&人材募集コーナー』とプリントされた紙が貼られた机に、また一人のボカロが近づいてきた。
黒髪で全身に包帯を巻いている。帯人という奴だろうか。

「ああ、入団希望?じゃ、ここに名前とケー番宜しく!!」

隣の雑音が提示した紙に、十数人目の名前が刻まれる。まさかこいつもこっちがマジもんの悪の組織だと思ってはいないんだろうな……ご愁傷様。

「……これでいいですか?」

「うん、ばっちり!これからよろしく!詳しい連絡は後から行くから!……ぐふふ、大量大量♪」

帯人が見えなくなってから、雑音が黒い笑みを浮かべる。今までで一番上機嫌だ。対する俺はげっそりしている。

「いやあ、予めギャラリーの意識操作をしておいたとはいえ、こんなに上手く行くとはねー♪いやーシグがビシッと決めてくれたからだよー♪」

「そりゃどうも……」

あれから色々聞いたところ、雑音は元々亜種キャラとして活動している途中でびんぞこに誘われ組織に入ったらしい。本人は組織の一員というよりバイト感覚でやっているようだが。

「一人につき五千円だから……うわ、やばい……よだれ出そう……!」

「おい、ところで雑音さんよ」

「うん?なっにっかなー♪」

幸せオーラを放出しながら振り向く雑音。
ほっとけばその場で踊りだしそうな雰囲気だ。

「いるんだろ?お前以外にも、古株の団員が。どんな奴なんだ?」

「ああ……実は私もよくわかんないのよねー、つーか私が加入してからやってた仕事って殆ど情報の横流しだけだったから今日の今日まで本当に組織あるとすら思ってなかったしー?」

話を要約すると、彼女にとってもこれが初めての大仕事だったようだ。そしてもう一人いると聞いていた団員については未だ顔どころか名前も知らないらしい。

「一応今回の任務には参加してたらしいけどねー、とても私一人の意識操作じゃこうはならなかっただろうし。ていうか顔も見せない奴のことなんてどうでもいいじゃーん♪」

「いや、俺命狙われてたっぽいからね……」

これからも今日のように半ば強制的にやらされるなんてたまったもんじゃない。が……知らないという以上諦めざるを得ない。
果たして何者なのだろうか……?

「……そーいえばあんた、歓迎会の時某ボヤキロイドさんにアツい視線を注いでなかったー?」

「ぶふぉっ!?」

あまりに唐突な切り込みに、俺は思わず口に運んでいた麦茶を吹き出した。

「な、なななんの話だ今日会ったばかりでまだろくに話したこともない相手に惚れる訳ないだろう非科学的な」

「あーもうその反応で大体わかったわ……あ、ハク」

「なんだとっ!?どこだっ!?」

俺はとっさに会場の中に視線を巡らせた。既に大分ボカロの数は減り、非常に見渡しはよくなっている。だが、見当たらない。

「どのあたりにいるんだ!?」

「ぷぷ、冗談冗談♪」

「て、てめぇ……」

騙されたと知った俺は雑音の顔を睨みつけた。

「こんな歓迎会早々に去ったに決まってんじゃなーい。長居する理由もないんだしー?」

「だろうな、冷静に考えればそうだろうよ畜生!」

「あの……」

と、その時控え目な声がかかった。

「なんだまた入団希望者か?ってあなたは!!」

「うそ、まだいたの……?」

声のした方に振り向いた俺の視界に映ったのは、なんとハクさんだった。酒が入っているのか顔がほんのり赤く、余計にエロ可愛らしい。

「あ、すみませんなにか私の話をしていたみたいだったので声をかけてみたんだけどやっぱり余計だったねごめんなさい……」

「いえいえ全然全くそんな事はないですどうぞどうぞお座り下さい!」

俺は雑音のイスを奪い取りハクさんが座れるよう配置した。「ちょ、何すんのよ!」という声が上がったが別に構うものか。

「あ、ありがとうございます……」

(うおお、可愛過ぎる……!)

ハクさんのちょこんとイスに腰掛ける仕草すら俺の心臓を跳ね上がらせた。

「……」

「……」

(しまった……会話がない……)

ハクさんを思わず座らせてしまったが、考えれば話す内容が思い浮かばない。助けてーと雑音に視線を送るが、自分でなんとかしろと言わんばかりにそっぽを向かれてしまった。

「……し、しかしまた、今日はなんでまた俺なんぞの歓迎会に来て下さったんです?」

とりあえず無理やり会話のタネをひねり出してみた。スピーチの際のぼやきに含まれていた気がするが気にするものか。

「それは、ネルに誘われて……会場に来たところで『今日仕事できたから無理』って言われて、私一人……いいなあ、仕事あって……」

「仕事ないんですか?」

意外だった。彼女は大御所だという話だったし、俺の知識の中でもかなりしっかりデータがまとめられている事を考えればその信憑性の高さもわかる。

「あ、いや、仕事自体はあるんだけど……どうも、イマイチ私のやりたい事じゃないっていうか……贅沢言ってるのもわかってるんだけど、でも……」

そういうとハクさんはいきなり立ち上がり、空の酒瓶を振りかざした。

「なんでみんな妙に胸を強調させたり露出度の高い服着せたりしようとするんだ!私の魅力は身体だけか!!……あ、すみません、急に大声出したりして……ほぼ初対面の方に愚痴だなんて最低だよね私……」

「……ハクさん」

うなだれるハクさんに、俺は声をかけた。あの悪夢の後に、まさかハクさんを励ますなんてボーナスイベントをくれるとは……運命の神もニクい事をする。

「一曲、歌って貰えませんか?」

「え、あ、うん……別に構わないけど……」

突然の申し出にも関わらず、ハクさんは快く歌ってくれた。

「~♪」

曲名も知らない曲だ。だが、何をやっても上手くいかない、でも諦められない。そんな縋るような思いが伝わってくるようだった。

「……と、いう感じです……変だったらすみません……」

「いえいえ、素晴らしかったです」

俺は、歌い終えたハクさんに心からの拍手を送った。

「ありがとう……でもきっとこの程度の声じゃ、魅力が足りないんだろうな……」

「いえ、それはない。断言できます」

「え……?」

きっぱりと言い切る俺に、ハクさんが注目した。今だ、行け!ここで格好付けなきゃ男じゃない!!

「あなたの声には間違いなく、あなたの見た目以上の魅力がある。だから、もっと自信を持って!それに、やりたい事があるなら、我慢せず周りにそれを伝えていいんです!だって、あなたには人の心を震わせる力があるんですから!!俺が保証します!!」

(よし……!)

もう満足だ。例えこれでハクさんに変な人と思われても、悔いは……ちょっとあるが。

「……凄いね……シグ君は……私じゃとてもじゃないけど恥ずかしくて言えないような事を、堂々と……」

しかしハクさんは俺の一抹の不安を見事にぬぐい去って下さった。どころか羨望の眼差しさえ送ってくれている。よし、ならば更に一押し。

「いえ、口で言うのなんて自信さえあれば簡単です。しかし、何かをなす事はそうはいかない。なそうとする事に、相応の実力を持って居なくてはならないんです。そしてあなたにはそれがある。力があるのに使わないのは、勿体無いですよ」

「勿体、無い……」

「はい。だから頑張って下さい!その歌声を錆び付かせない為にも!」

決まった……!我ながら完璧だ……!

「……ありがとう……こんな私を、そんなに誉めてくれて……シグさんの期待に少しは答えられるよう、頑張ってみるよ。……それで、お礼と言ってはなんなんだけど……」

「?」

と、俺が疑問符を浮かべている間に、ハクさんは入団希望者名簿に名前を書き込んでしまった。

「ちょ、ハクさん!?」

「ん?この紙じゃなかった?」

「いや、そうじゃなくてですね……」

(こ、こんな馬鹿げた事にハクさんを巻き込んでたまるか……!)

しかし、こういう時に限って、無情にもいい言い訳は思い浮かばなかった。
口先だけが俺の取り得だというのに……

「なら、これからは同じ組織の一員としても、よろしく」

「は、はい……」

俺に握手を求めた後、ハクさんは去っていった。
本当すみませんハクさん、あなたの人生に余計な汚点を作ってしまって……でも、ハクさんの手、すべすべしてて心地いい触り心地だったな……

「……いやー、まさかハクまで釣れちゃうなんてねー……シグ、あんた大したもんだわ。ていうか普段からハクに接した時のノリの方が、あんた絶好モテるわよ」

「別にいい。俺の女神はハクさんだけだ」

「あらあら、お熱だことー♪妬けちゃうわー♪」

「お前は黙ってた方がモテると思うぞ……」

「よ、余計なお世話よ!」

こうして、唐突に始まった俺の二回目の人……ボカロ生の最初の1日は終わりを告げた。
今後が色々な意味で猛烈に不安ではあったが……少し、楽しいかもしれない。俺は、そんな事を思い始めてもいた。

第四話、終了です。ようやく一区切りつきました。

地味に伏線が張られているようで張られていません。もう一人の古株とか、自分も誰にするかまだ決めてないですし……というか、「これだ!」というキャラがいたら誰か紹介して←

そして、作中でシグが宣伝してますが、実際に組織名は募集してます!一人いくつでもいいのであげちゃって下さい!
後、作中に出して欲しいキャラ・やってほしいシチュエーションの話などあったらあげてください!運がよければ出たりその話書いちゃいます!

宜しくお願いします!

投稿日時 : 2011/05/20 20:35    投稿者 :瓶底眼鏡

ヘルプブクマでつながった作品とは?

小説【とある科学者の陰謀】第関話~スポットライトの外で~迎え撃つ者たち

クリプトン社の私有地であるピアプロは、警察に頼らない独自の警備体制を敷いている。
人間の警備員の数が圧倒的に少なく、代わりに独自技術で作り上げた警備ロボや日頃アイドルとして働くボカロ達を使っているのだ。
何故彼らを使ったかと言えば、ボカロの中には制作者のこだわりからか無意味に戦闘能力の高いものも珍しくはなく、しかも彼ら自身がピアプロの住人であるが故に防衛意識も高い、などといった理由が挙げられ、実際彼らは期待以上の成果を上げ続ける事になった。
だから故に、彼らにとって今回の事件の結果ーー則ち、突如起こった暴動を鎮圧出来ず、更にセントラルビルへの侵入者に保管物資の盗難を許してしまった事は、初の大きな『敗北』として語り継がれることとなる……最も、この背景には、今までボーカロイドが犯罪を起こした前例がなく、故に実質初のボーカロイドによる能動的な犯罪行為であった今回の事件にうまく対応出来なかったのだが。
因みに、余談ではあるが実行犯が完全に外見を隠していた為に現時点で誰もこの事件をボーカロイドが起こした事と気づく事はなく、結果多くの人々は初のボーカロイド犯罪は後の《初音ミク誘拐事件》であると認識する事となる。

瓶底眼鏡さん

瓶底眼鏡さん

2011/06/15 22:59

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